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 ◆ ――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
  渡辺悦司

――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判

渡辺悦司
2015年7月27日

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 現在、原発をめぐる情勢は極めて切迫している。福島原発事故以後日本の原発は次々と停止し原発ゼロの状態が続いてきたが、8月の鹿児島県の川内原発を皮切りに原発の大規模な再稼働が順次始まろうとしている。経済産業省は7月16日「長期エネルギー需給見通し」を決定し、以前に提起されていた案の通り「2030年度電源構成」を決定した。以下は、「2030年度電源構成案」(以下電源構成案と略記)を分析し、その真の意図と欺瞞性、政府・原発推進勢力が進めようとしている原発再稼働計画の規模や内容、その致命的な欠陥と危険性、その実施から必然的に生じることになる諸結果について考察しようと試みた論考である。読者にとって読みやすいよう少し先回りになるが内容を要約してみよう。

 「はじめに」では、電源構成案が残存原発の最大限規模の再稼働計画であり、新増設を含めて福島事故前の原発推進政策に回帰する意図の表明であることが示される。

 第1章では、同案の最重要かつ致命的な問題点――同案自身が原発46基の稼働によっておよそ20年あるいは10年に1回の頻度での福島原発事故級の苛酷事故の反復を最初から想定していることを詳しく検討する。この苛酷事故頻度想定は、決してわれわれ自身の独自の見解とか評価ではなく、政府専門家会議の報告書そのものが明確に記載し公然と述べている内容である点に注目して分析している。

 第2章では、電源構成案が、原発再稼働の障害になるとして、再生可能エネルギー・自然エネルギーの導入を、政府公約に公然と違反して、全体として抑制する計画となっていること、とくに太陽光については既存の認定分を2割も削減する計画であることが明らかにされる。

 第3章では、同案における発電コスト比較が、どのような形で、原発を一番経済的なエネルギー源であるかのように見せかけるために数字上操作され粉飾されているかを詳しく分析する。原発は現実には、石炭火力はもちろん自然エネルギーに比較してさえ高コストのエネルギーであることが証明される。それにもかかわらず、政府や電力会社や財界が原発を再稼働し推進しようとする奥深い基礎は、経済的には、使用済み核燃料という核廃棄物が「資産」扱いされ、巨大なマイナスの価値が巨大な資本価額に転化されるという「核のゴミ」に対する「物神崇拝」的会計経済制度にあることが明らかにされる。

 第4章では、政治的軍事的な分析が行われ、原発・核燃料サイクルへの固執が日本の独自核武装への意図と不可分に結びついていること、また原発を導入しようとする新興諸国に原発輸出によって核兵器拡散の危険があること、原発再稼働が現在の戦争法制と軍国主義化と一体であり、民主主義の危機を意味することが強調される。

 第5章では、再生可能エネルギー技術の最新の発展段階を検討する。政府は再生可能エネルギーについてその固有の「変動性」のために「ベースロード電源」としては使えないと切り捨てたが、それとはまったく反対に、世界的規模では、変動性再生可能エネルギーを基軸とした電力技術革命が現に進行中であり、原発の方こそ過去のエネルギー源となりつつあるという現実が事例研究により示される。日本は、この分野での国際競争に大きく立ち後れつつあり、この電源構成案が今後15年にわたって実行された場合、日本が電力技術の部面で国際水準から決定的に落伍してしまうことは避けがたいことが示される。
 第6章では、電力部門の直面している危機について検討する。火力発電とくに石炭火力に大規模な投資が行われている中で原発を大々的に再稼働すれば、電力部門の過剰設備危機の激発は不可避であること、原発をめぐる世界的趨勢の中で世界でも日本でも原発関連企業・部門で深刻な経営危機および技術劣化が生じていることを事例研究により指摘する。また、この電源構成案の路線を今後長期に実施した場合に生じうる結果を検討する――福島級の原発事故の再来と反復、日本の人口の減少の急加速、日本経済の深刻な危機と経済的衰微が生じることは避けられないことが示される。電源構成案は政府・財界・支配上層のいわば倒錯と狂気を反映していると言って過言ではないが、これは諸個人のものではなく原発をめぐる経済・政治・社会関係から不可避的に生じるものなのである。

 以上すべてから、脱原発と再生可能エネルギーへの移行は、今では現在の生産力の要求であること、政府の原発再稼働・再生エネルギー削減計画とそれを進めるような政治経済体制は生産力の桎梏となっており、どのような経過を辿ろうとも最終的には必然的に打破されるほかないと結論づけられる。その際の電力・原発企業の民主的懲罰的国有化の重要性が指摘される。
 本論を作成するにあたって貴重な問題提起をいただいた田中一郎氏、重要な情報をご提供いただいた落合栄一郎氏に深く感謝いたします。



目 次

はじめに

第1章 経産省2030年電源構成案が想定する事故確率――計画通り46基稼働すれば「22年に1回」の頻度で福島原発事故ような過酷事故が繰り返されるという前提で立案されている
 1.事故確率1基あたり「4000炉・年に1回」の本当の意味
 2.苛酷事故確率についての政府文書の説明
 3.政府想定の事故確率の検証――立地点ベースの事故頻度実績の計算
 4.政府が想定する事故確率の整理
 5.事故確率を大きくするその他の諸要因
 6.安全への基本的考え方と事故確率の意味の根本的変化
 7.経団連「エネルギーミックス」プランの役割と財界の責任
 8.チェルノブイリ事故と社会主義崩壊以後の東欧の人口動態
 9.結論

第2章 電源構成案の基本的な内容と特徴
 1.原発再稼働の規模と再生可能エネルギー抑制
 2.日本経団連の2030年度電源構成案
 3.電源構成案でCO2の26%削減目標の達成は可能か

第3章 発電コスト比較――本当に原発は一番安価な発電方法か? なぜ電力会社は原発を運転して大きな利益を得るのか?
 1.計算上のトリック――他の発電種類の数字を人為的に膨らませる
 2.原発の発電コストを低く見せかけるさまざまなトリック
  2-1.事故費用を低く算定する
  2-2.核燃料サイクルコストの罠
  2-3.安全対策費用、廃炉費用などの過小評価
 3.「共済方式」を採用し「割引率3%」と計算
 4.電源構成案の補正したコスト比較
 5.電力会社が原発を動かしたがる理由――会計上の「錬金術」
 6.東京電力の巨額の利益の秘密――交付金受取と賠償支払いの削減・遅延

第4章 核武装の準備としての原発と再処理・核燃料サイクル、原発再稼働と軍国主義の不可分の結びつき、日本における民主主義の危機の現れの1つとしての再稼働
 1.原発問題は軍事問題である
 2.現在問題になっている戦争の性格
 3.原発輸出による新興国への核兵器拡散の危険性
 4.軍国主義に内在する自滅的性格
 5.日本の民主主義全体の危機の一環としての原発再稼働

第5章 風力・太陽光を基礎とした電力技術革命、その世界的進展、その中で再生可能エネルギーの導入抑制を基礎に原発を大規模再稼働する意味について
 1.風力・太陽光発電を基軸とする電力技術革命の進展
  事例1:アメリカにおける風力発電所レベルの蓄電池と電力系統周波数調整サービスとの組み合わせ
  事例2:電力会社レベルでのエネルギー貯蔵・周波数安定化システム
  事例3:アメリカにおける大規模太陽光発電所
  事例4:スペインの自然エネルギー発電量予測システムとその中央給電センターとの統合
 2.ベースロード電源という考え方は「時代遅れ」である
 3.自然エネルギーは国産エネルギーであり自給率上昇にも役立つ
 4.日本の電力産業の技術的立ち後れ
 5.自然エネルギー革命から出てくる将来に向けての結論

第6章 電源構成案の経済的結果――迫り来る電力過剰設備危機
 1.エネルギー政策の基本目標
 2.発電設備への過剰投資傾向
 3.世界的な原発産業の経営危機とその日本への反映――技術劣化の危険
 4.総括

参考文献

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