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 ◆ ――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
  渡辺悦司

――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判

渡辺悦司
2015年7月27日

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はじめに

 政府は7月16日に2030年度の「望ましい電源構成」を正式に決定した。それに向けて、経済産業省有識者会議(総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会)は4月28日に「長期エネルギー需給見通し骨子(案)」および同「付属資料」を提起し、6月1日に決定していた(文献1~3)。正式の決定は同案の通りであり、以下は同案の分析であるが、決定された内容と同一である。それによれば、政府が想定する2030年度の電源構成は下図の通りである。


図表1 2030年度に想定されている電源構成とその内訳
図表1 2030年度に想定されている電源構成とその内訳
 (画像をクリックすると拡大します)
出典:経済産業省総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会「長期エネルギー需給見通し骨子(案)関連資料」
注記:電力需要は、2030年度に2013年度との比較で、わずか1.5%しか伸びないと想定されている。政府案はこの間に17%の省エネを実現するとしている。


 ただこの図表では、原発が停止している現在の状況が分かりにくいので、日本経済新聞のデータを入れて作成した下表を参照していただきたい。

表1 電源構成の推移と政府による2030年度の想定
原動力別 震災前10年間平均 2013年度実績 2030年度想定
原子力 27% 1% 22~20%
水力など再生可能エネルギー 11% 11% 22~24%
石油火力 12% 15% 3%
LNG火力 27% 43% 27%
石炭火力 24% 30% 26%
合計 100% 100% 100%
出典:(1)震災前10年間平均と2030年度想定については、経済産業省総合資源エネルギー調査会長期エネルギー需給見通し小委員会「長期エネルギー需給見通し骨子(案)」
  • 原発と再生可能エネルギーで数字の順番が違うが、これは原発については高い方の22%が、再生可能エネルギーについては低い方の22%が現実の目標となっていることを示唆している。
  • 注意点としては、原発比率が自家発電分を発電量合計に入れた数字に対して計算されている点である。したがって、一般に使われる自家発電分を除いた発電量では、原子力発電所の想定比率は24~22%となる。(2)2013年度実績については、日本経済新聞2015年6月13日付の記事「石炭火力リストラ促す 環境相、山口の新設計画に異議 老朽施設削減も視野」より引用。
  • 原発がゼロになっていないのは、当時大飯3・4号機が2013年9月まで稼働していたことによるものである。2014年度ではゼロである。
 同電源構成案については、次のような問題点があり、すでに多くの人々によって指摘されている(文献10~13など、他にも多くある)。

 (1)同案の真の目的がどこにあるかという点である。同案は、未来の「望ましい電源構成」を示すという形をとっているが、実際には、政府の今までの「原発依存度を可能な限り減らす」という公約に明確に違反しそれを事実上破棄して、福島原発事故以前の原発推進政策への全面的な回帰をはっきりと示すことが現実の意図ではないかと疑われている。具体的には、同案が想定している2030年度の原発依存度22%~20%を実現するためには以下の諸方策の実施が必要となり前提となるので、それが真の目的ではないかという点である。

  1. 既存原発を最大限に再稼働する(すなわち福島第2、女川、東海、浜岡も含めて廃炉決定以外の原発43基をすべて動かす)。
  2. 原発の新増設を推進すること(最低でも大間、島根3号機、東通2号機の完工・稼働)とあわせて、結局は「なし崩しに」(文献13)あるいは「後出しジャンケン」的に(文献11)老朽化した原発のリプレースを推進する。
  3. 現在の設備年限である40年を越えての原発の稼働を「例外的措置」ではなく「常態化」する(まずは60年までだが、おそらく次には80年まで[文献15]となる可能性があり、結局は、可能な限り廃炉費用を避け、事故を起こして使えなくなるまで使い尽くす方向性が示唆されている)
  4. 使用済核燃料を全量再処理する(20年後半量・45年後全量という年限とともに明記されている)。記載の通りであれば、再処理・核燃料サイクルを六ヶ所再処理工場の工事完工や高速増殖炉「もんじゅ」の稼働も推進することになる、等々。
 しかし、既存原発のこのように大規模な再稼働と老朽原発の最大限長期利用によっても原発比率22%を確保することは「あまりに非現実的」な方針であると考えられている(文献10)。

 (2)再生可能(自然)エネルギーは、「最大限導入する」という公約に違反して、伸びを抑制し、とくに太陽光発電については認可済み計画さえ削減する内容となっている。2030年度に発電量の22%~24%というのは数字の上で「格好を付ける」程度であり、実際には「導入目標ではなく抑制目標」であるとさえいわれている(文献12)。これは、IEA(国際エネルギー機関)の2030年までに「変動性再生可能エネルギー(主に風力と太陽光)を45%に高める」という勧告に真っ向から違反する内容である(文献1214)。この分野での国際競争に立ち後れてしまう可能性があると指摘されている。

 (3)環境的負荷の大きい石炭火力に追加的に依存しており、石炭火力の過剰設備化が避けられず、さらにCO2排出だけでなく大気汚染とくにPM2.5などの問題がさらに深刻化する危険性がある。

 (4)発電コストについては、福島原発事故の賠償支払や今後の重大事故対策を考慮に入れても「原発が最も低い」という計算は「無意味」(文献10)である(付言すれば、同案は、現在最も安価とされる石炭火力のコストには、現実には課されていない炭素税分を上乗せして原発より高く見せる細工をするなど欺瞞的なものでさえある)。

 (5)吉岡氏は電源構成案の原発比率22%~20%を「非現実的」と評価している(文献10)が、同案の実現性の問題にはここでは立ち入らないことにする。経済計画を評価する上でのまず第一の論点は、その実現可能性の前に、その目的あるいは意図でなければならない(文献45)。その意味では、電源構成案は、全体として見れば、火力発電を維持した上での、原発推進の障害になる再生可能エネルギー活用を抑制し、原発の最大限の再稼働計画であるといえる。それはまた、この夏以降に連続的に予定されている本格的な原発再稼働を、政府として後押しするための正当化の手段、政治的ショーアップとしての性格が強いといえる。

 だが、これらの経産省案をめぐる議論では、この計画のもつ最大の危険性、文字通り致命的な欠陥に十分な光が当たっているとは言いがたい。上記のさまざまな問題点の検討は後回しにして、多くの論者において注目されていない最も深刻で重大な問題点、電源構成案のベースとなっている原発過酷事故頻度(確率)の想定を詳しく検討しよう。

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