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 ◆ ――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
  渡辺悦司

――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判

渡辺悦司
2015年7月27日

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第4章 核武装の準備としての原発と再処理・核燃料サイクル、原発再稼働と軍国主義の不可分の結びつき、日本における民主主義の危機の現れの1つとしての再稼働

この章の目次

1.原発問題は軍事問題である
2.現在問題になっている戦争の性格
3.原発輸出による新興国への核兵器拡散の危険性
4.軍国主義に内在する自滅的性格
5.日本の民主主義全体の危機の一環としての原発再稼働




 1.原発問題は軍事問題である

 前に引用した『ダイヤモンド』誌のインタビュー記事の後半も興味深い。
(西川) 過去にさかのぼって資料を調べれば調べるほど、原発問題の行きつく末は軍事問題なのだということがわかる――と西村さんは言う。
(西村) 「1954年に保守3党から最初に原子力予算が提出されたとき、中曽根康弘氏ら中心メンバーは『原子兵器を使う能力を持つことが重要』という意味の言葉を述べています。また、1969年にまとめられた『わが国の外交政策大綱』には、当面核兵器は保有しないが、核兵器を作るためのお金や技術力は保っておくべきである、と書かれているんです」。
(西川) プルトニウムを保有することの良し悪しは別として、西村さんは「これ以上のプルトニウム製造は、安全保障の面から見ても必要ないはず」と言い切る。
(西村) 「すでにフランスやイギリスで再処理し、(国内に)保管してある日本のプルトニウムの量は、核兵器数千発分に相当します。だから国際的に見れば、日本は“準核保有国”という位置づけなんです」。
 この記事は極めて重要であって、安倍政権と財界中枢が原発に固執する経済以外の理由、政治的軍事的理由を明らかにしている。核武装の準備、その物理的条件の確保、その前提として「準核武装国」の地位の維持――これこそ原発再稼働と原発推進の隠された秘密である。
 今回の政府案のベースとなった日本経団連の文書「新たなエネルギーミックスの策定に向けて(概要)」は、「エネルギーミックスの中に原子力を明確に位置づけ、核燃料サイクルを着実に推進することは、日米原子力協定を円滑に延長し、世界の原子力平和利用に貢献するためにも重要」であると露骨に書いている。(文献8)。
 プルトニウムの抽出を含む再処理が国内で可能な現在の日本の「準核武装国」としての地位は、ここに言及されている日米原子力協定によって与えられており、その期限は2018年で切れる。韓国などは日本にだけこのような地位を与えることに反対している。この改訂交渉のためにも原発を稼働し、核燃料サイクルを推進しておかなければならないという発想は、日本の独自核武装カードを保持し続けるという意図の露骨な表明であり、安倍政権が進めている安保法制・集団的自衛権の行使容認と一体のものである。

 アメリカ支配層の一部で、日本の核武装によって中国に対抗していく可能性が検討されていることは、日本経済新聞に掲載されたアーサー・ウォルドン氏(ペンシルベニア大学教授)の論説にはっきり示されている(2014年3月7日付)。同氏は、中国の核戦力および通常戦力が今後10年間さらに強大化すれば、日本が攻撃された場合に米国が核兵器によって日本を防衛することはできなくなるであろうという見通しを述べ、日本のミサイル迎撃システムも中国の核兵器に十分には対抗できないであろうと書いた後、次のように言う。「その問題に対する答えは困難だが、極めて明確だ。中国は脅威であり、米国が抑止力を提供するというのは神話で、ミサイル防衛システムだけでは十分でない。日本が安全を守りたいのであれば、英国やフランス、その他の国が保有するような最小限の核抑止力を含む包括的かつ独立した軍事力を開発すべきだ」と結んでいる。日本に核武装の検討を公然と促す主張を、アメリカの専門家によって書かれたものではあれ、日本財界に最も近い有力紙日本経済新聞が掲載したことは、極めて意味深長である。それは、日米支配層の間で、中国の核戦力に対抗する手段として、日本の核武装という選択肢が本格的に研究され検討されていることを示す証拠の一つである。多くの場合、日本の核武装は、安倍現首相も含む一部の右翼的政治家の失言やブラフとだけ見られているが、その危険性を決して軽視してはならない。現在問題になっている戦争法制を阻止しなければ、原発再稼働を阻止しなければ、次には核武装が前面に出てくる危険が十分ありうるということであり、決して警戒を怠ってはならない。

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 2.現在問題になっている戦争の性格

 重要な問題は、現在の安倍政権が強行しようとしている「戦争法制」における「戦争」の「仮想敵国」はどこか、実際に想定され準備されつつある戦争は社会経済的に見てどのような性格の戦争か、という点である。まず、仮想敵国が第1には中国であり、さらにはロシア、北朝鮮、イラン、またテロリストと一括されている武装集団であることは明らかである。想定されている戦争は、大きく分けて2つである。

 第1は、イランや中東諸国や北朝鮮など、さらにはテロリストを口実とした途上諸国に対する帝国主義的・植民地主義的な侵略戦争である。独占資本主義の基礎の上では、資本輸出によって蓄積され、世界的規模に拡大してきた海外権益が存在すれば、それを武力によって防衛しようとする衝動が生まれるのは、必然であり、それがこのような戦争の基礎にあることは明らかである。日本は、自国だけではできないこの機能を、アメリカやその他の国と協力して、アメリカの下請けとして、積極的に果たそうとしているのである。だがこれだけではない。

 第2は、中国およびロシアを主敵とする世界的覇権と勢力圏の維持・再分割のための戦争である。中国はその経済力の強大化に見あう勢力圏を要求する形で、ロシアは社会主義崩壊時に米欧に奪われ失った勢力圏を取り返す形で、世界の勢力圏の再分割を求めようとする野望が出て来るほかない客観的立場に置かれている。これは今まで支配してきたアメリカ・欧州・日本などの利害と直接に衝突する。このような利害対立がどの当事国にとっても帝国主義的性格を持つことは明らかである。しかも現段階の特徴は、この再分割の対象には領土が直接的な形で含まれていることである。経済的分割とは違って、領土の再分割は、クリミアやウクライナ東部の例で明らかなように、武力によって軍事的にしか行うことができず、それは他の当事国との戦争に転化する可能性が極めて高い。

 現在アメリカがアジアにおいてまた世界的規模で準備し日本がその一翼を担おうとしているのは、第1の戦争だけではない。第2の戦争、世界支配と世界的勢力圏の帝国主義的再分割をめぐる、中国・ロシアに対する全面核戦争あるいは全面核戦争に転化する可能性が高い局地的戦争もそうである。自衛隊をそのための米軍配下の「下請け」部隊に変えてしまうことが、「安保法制」と現に進んでいる日米防衛協力(さらにはオーストラリア、フィリピン、インドなどとの軍事協力)の真の目的である。その目下の焦点の1つは、中国との間での南シナ海の領土的経済的軍事的な分割である。自衛隊と米軍およびフィリピン軍の共同哨戒訓練がすでに始まっている。これが中国との直接の軍事的対立に導くであろうことは明らかである。

 現在表に出ている「戦争法制」と「集団的自衛権」は、次には「憲法改悪」「徴兵制」に、さらにはアメリカの軍事力が相対的に弱体化するような場合には西川・西村両氏の警告する「日本の核武装」となってエスカレートしていくであろうことは、すでに明白である。
 また三菱グループを想起すれば明らかなように、日本の主要原発企業は、同時に軍需企業集団であることを忘れてはならない。


 3.原発輸出による新興国への核兵器拡散の危険性

 日本の原発企業は、新興諸国や途上国に対して大々的に原発を輸出しようと計画している。それには原発事故時の日本政府による(したがって日本国民の税金による)補償条項が付いている点が問題視されている(文献44など)。われわれは、さらにこの点に加えて、もし新興国への原発と核技術の輸出が実施されるならば、核武装を狙っている諸国への核兵器の拡散につながりかねず、世界的な核戦争の危険を高める結果になりかねない点を強調したい。

 最近、新興国への核拡散の危険の切迫度を端的に示す事例があった。アメリカ・欧州は、イランとの間で、イランのウラン濃縮の権利を認め、読みようによっては「8~15年後」のイランの自由な核開発すなわち核武装を容認したとも解釈される核協定を締結した。このことと関連して元米国国連大使ジョン・ボルトン氏は「サウジ、トルコ、エジプトが核兵器が不可欠と結論づけ」「(中東における)核軍拡競争が始まった」と警告したと報道されている(読売新聞2015年7月15日付)。三菱グループは、安倍首相の直接の後押しを受けて、仏アレバと共同で、トルコに原発を輸出することに決まっているが、これがトルコの核武装の物的準備を促す危険性は極めて高いといわざるをえない。

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 4.軍国主義に内在する自滅的性格

 よく知られているように、軍国主義は内在的に、すなわちそれが何らかの外的な力で抑え込まれることがないならば、不可避的に戦争に向かって突き進み、軍事的な敗北や泥沼あるいは社会経済的崩壊などの決定的な破局に陥るまで止まることができないという一種の自滅的傾向をもっている(文献47)。明治維新後の征韓論から始まり日清・日露戦争を経て太平洋戦争での軍事的敗北と無条件降伏にいたる歴史を振り返ってみても、このことは明らかである。

 近年目立って活発化している日本の軍国主義は、決して日本が経済的金融的に成長・強化されつつありそれを基礎にして顕著に前面に出てきているのではない。むしろ反対である。確かに日本の独占体は対外進出を遂げ、世界の経済的分割に深く関与するようになっている。だが、日本の長期的経済停滞と最近の円安によって、日本の国際的な経済力は大きく削がれている。IMFの統計によれば、日本と中国のGDPを名目で比較すると、日本は2009年に中国に抜かれて以降、2014年には中国の半分以下になっている。日米比較では、日本は1990年代半ばにはアメリカの7割程度であったが、2014年には4分の1程度にまで低落している。購買力平価では、日本はすでにインドにさえ抜かれて世界の4位に転落している。このような日本の急速な経済的衰退とそれに対する危機感・焦燥感こそが、軍国主義的傾向をいびつな形で強めているのである。

 軍事的にも日本は、中国の軍事的台頭によって、1980年代ごろまで有していた東アジアにおける通常兵器における軍事力の優位を失って久しい。最近の「集団的自衛権」や「歴史問題」などをめぐる政府や自民党の首脳たちの「勇ましい」発言などもまた、決して日本の軍事的地位の強さの証明ではない。これも反対である。軍事ジャーナリストの福好昌治氏は、自衛隊筋に近い軍事雑誌『軍事研究』において、改訂された日米ガイドラインを詳しく分析して次のように結論している。「アメリカは対テロ戦争で疲弊した」「新ガイドラインで日米同盟のグローバル化が打ち出されたものの、肝心のアメリカの力が陰りを見せ始めた。だからといって日本がアメリカに替わるグローバルパワーにはなれないし、アメリカもそれを望んでいない、むしろ警戒している。」「日本が(とくに尖閣問題をめぐって)対中抑止にアメリカを巻き込もうとしているのに対し、アメリカは(日中間の)余計な紛争には巻き込まれたくないと考えている。日本は自衛隊の役割を拡大しようとしているが、アメリカは日本防衛への関与を後退させている。日米の思惑には微妙な相違がある」と(文献47)。この発言は、中国による占領の危険にさらされている尖閣列島の防衛へのアメリカの政治的軍事的協力と引き替えに、「集団的自衛権」容認による世界的規模での自衛隊の米軍下請け部隊化が、日米間で取引された可能性を示唆している。このように日本が経済的にのみならず軍事的にも後退局面にあり追い込まれて行っていることが、安倍政権が進める日本の冒険主義的軍国主義をより危険で自滅的な性格を強めているということができる。

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 5.日本の民主主義全体の危機の一環としての原発再稼働

 すでに指摘したように、現在始まろうとしている原発の大規模再稼働の計画は、対米従属の一段の強化の下での日本軍国主義の急速な台頭と不可分に結びついているだけではない。またそれは、憲法学者のほとんどが憲法違反として反対しており憲法違反が誰の目にも明らかな安保法制を政府がごり押しすることによって顕在化している日本の民主主義全体の危機、立憲主義そのものの危機の一環でもある。原発をおよそ20年周期で福島的事故を引き起こし住民と国民全体を被曝させる想定を持って再稼働することは、憲法の保障する人権、人格権の公然たる蹂躙であり、明確な憲法違反である。国民の大多数が反対しても、政府が決めたことだから「粛々と」強行するという意味でも、安保法制、沖縄の辺野古基地建設などと同じく民主主義の公然たる否定である。この意味で、原発再稼働に反対する闘いは、民主主義と憲法・立憲主義を守る闘争の一環である。

 安倍政権を先頭として軍国主義を進めようとしている勢力は、原発の大規模再稼働を推し進めようとしている勢力と一体化している。それには公明党・創価学会の指導部も含まれる。軍国主義に内在するこの自滅的傾向は、原発の再稼働計画にも反映して、原発推進自身のもつ自滅的傾向と一体となり、その危険性を異常なほどに高めている。この二つの自滅的傾向の結合こそ、原発再稼働をめぐる政府・財界の議論における思考の異常な「倒錯」「転倒」や「狂気」「狂信」の物的な基礎である。原発の大規模再稼働において示されている自滅的・自殺的傾向は、日本の軍国主義に必然的に内在する自滅的傾向と一体のものなのである。安倍政権と支配層は、このように戦争・核戦争によると同時に原発事故・放射線被曝とによる自滅に国民を無視やり巻き込もうとしているのである。

 「原発事故で被曝しても安心」「福島事故では何の健康被害もない」「被害を言うものは風評をばらまくものだ」という現在行われている政府・原発推進勢力のキャンペーンは、安倍的な戦争路線が進んでいけば、次の段階では「核戦争による放射性降下物があっても大丈夫」「死の灰で被曝しても安心」「核兵器を使っても問題ない」という性格に変化していく危険性がすでに見え隠れしている。被曝安心キャンペーンには、核兵器にも原発にも反対していると称する野口氏ら「放射線被曝の『理科・社会』」のグループも巻き込まれているが、彼らは、この傾向が、核戦争を肯定する恐るべき毒芽を宿している(毒牙を隠しているという方が適切かもしれない)ことに、本当に気が付いていないのであろうか。きわめて深刻な事態である。

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