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 ◆ ――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
  渡辺悦司

――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判

渡辺悦司
2015年7月27日

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第6章 電源構成案の経済的結果――迫り来る電力過剰設備と技術劣化の危機

この章の目次

1.エネルギー政策の基本目標
2.発電設備への過剰投資傾向
3.世界的な原発産業の経営危機とその日本への反映――技術劣化の危険
4.総括




 1.エネルギー政策の基本目標

 政府「長期エネルギー需給見通し(案)」はその基本目標について次のように書いている。「エネルギー政策の要諦は、安全性(Safety)を前提とした上で、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図ることにある(「S+3E」と名付けている)」と。同案は「安定供給」について、「エネルギー自給率の改善は長年にわたる我が国のエネルギー政策の大目標である」と説明している。さらに「環境への適合」とは、「欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリードすることに資する」ことであるとしている。
 しかし、すでに検討してみるとこれらの基本目的はすべて虚偽であることが明らかになる。20数年ごとの福島・チェルノブイリ級過酷事故の反復を確率的に前提とした計画が「安全性」を前提しているとは決して言えないはずである。「エネルギーの安定供給」「自給率改善」は、ウランを100%輸入に頼る原発を国産エネルギーと偽ることによる欺瞞的な主張にすぎず、純国産の再生エネルギーを抑制したことによって自立の道は却って閉ざされてしまった。「経済効率の向上」の可能性は、世界で進行する自然エネルギーによる電力技術革命に背を向け、発電コストが高くリスク費用・社会的費用が巨大な老朽原発の再稼働に大きく依存することによって、失われてしまった。「環境への適合」は、原発事故の頻発による大量の放射性物質の放出を前提として見込むことによって頭から否定されている。「温室効果ガスの大幅な削減」の可能性は、自然エネルギーの大規模導入の道に進まなかったことによって、消失してしまった。原発の大規模な再稼働によっては、福島事故以前の状態に戻るだけであって、日本経団連の推計によっても数%から10数%の削減としかならず、26%という政府目標に大きく及ばない。
 では、この電源構成案の実施によってどのような経済的結果が生じるであろうか?


 2.発電設備への過剰投資傾向

 経済面から見ると、経済産業省の電源構成案は、老朽原発の大規模再稼働計画であり、同時に、実際には火力とくに石炭火力への依存であり、その結果は電力部門の深刻な設備過剰ということである。上で見たように、実際には石炭火力が直接的には最も安価であり、石炭火力の集中的な新増設が進んでいる。
 これに関連して、日本経済新聞(2015年5月6日)の報道によれば、東電以外の電気事業者による首都圏向けの火力発電所の新増設計画だけで、金額にして2兆円、1300万kW(原発13基に相当)分があるという(原発を建設とするとすると2兆円ではわずか4基程度しか建設できないであろう、少しテーマが外れるがこの点は触れておくだけにしよう)。日経が掲載している新増設計画は石炭およびガス火力である。
 報道によれば、これだけで東電の現有火力発電能力の3分の1に相当する規模であるという。したがって、経済産業省の電源構成案通りに事態が進めば、柏崎・刈羽原発および福島第2原発の再稼働が行われ、その分がこの火力発電の新増設分(多くは2020年代に稼働予定)に、付け加わることになる。こうして、同記事は、2016年4月の電力自由化後に「供給過剰が懸念される」と書いている。電力供給能力の大規模な過剰状態が顕在化する可能性が高くなっているのである。
 最近石炭火力をめぐって投資を容認したい経産省と、石炭火力投資を止めて原発稼働をさらに進めたい環境省の間で論争が生じているが(日本経済新聞2015年6月23日)、この背景にあるのは原発大規模再稼働によって生じる電力設備過剰である。
 中村稔氏によると(『週刊東洋経済』2015年6月20日号)、2016年4月から始まる電力の自由化に向けて、東電と新電力との間の「激突」が生じているという。東電は、すでに自由化されている大規模需要者向けの「高圧」部門で、2015年3月までの累計で7%(約750万kW、原発7基相当)分の電力需要を失ったという(文献39)。
 片田江康男氏によると(『週刊ダイヤモンド』2015年7月18日号)、他方で、政府とくに環境省は、電力自由化を骨抜きにし原発再稼働を容易に進めようとして、CO2規制の名の下に、石炭火力への投資計画を「全滅」させる方針だと伝えられている。さらに、自由化によってできる「電力卸売市場」に対し、原発による電力を「公益電源」として、販売を半ば強制する方向を検討しているともいわれる(文献43)。政府は、新電力側に「クリーン」や「グリーン」あるいは「きれいな電気」などという宣伝を行うことを禁止した(2015年6月25日)が、これによって政府は原発が「汚い」電気であることを半ば公然と認め、消費者が原発によって発電された「汚い」電気を忌避することに恐怖していることを自己告白したのである。
 いずれにしても、7兆5000億円の巨大市場を何としても再分割しようとしている新電力側がこのような方向に従順に屈服するとも思われず、電力市場をめぐる極度の緊張と危機的状態が、原発の再稼働が本格化するにつれて生じようとしていることは確実である。

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 3.世界的な原発産業の経営危機とその日本への反映――技術劣化の危険

 原発産業部門の世界的な危機も深刻化している。

 [仏原発メーカー、アレバの危機] フランスの原発企業アレバは、2014年通期で6700億円という巨額の赤字を計上(4年連続赤字)、事実上倒産し、国有企業でありながら国家救済された。日本経済新聞は、2015年5月5日、原発事業不振の主要な原因の1つとして、アレバが受注しているフィンランドのオルキルオト原発建設でのトラブルを挙げている。
 杜耕次氏によれば、フランスのオルランド大統領は、原発全面依存(現在約75%)という方針に固執する国有電力公社社長を解任し、再生可能エネルギーの重視とともに、「縮原発」の方向を前に出しているという(文献30)。この背景には、欧州での原発建設の停滞、世界におけるロシア、中国、韓国などとの激烈な競争、原発事業の利潤率の顕著な低下がある。
 一時期は原発輸出受注に沸いていた日本の原発企業も例外ではない。

 [三菱重工、三菱・日立合弁企業の技術劣化] 三菱重工は、アメリカのサンオノフレ原発での蒸気発生器トラブルで約4000億円もの訴訟請求を抱えている。これは、2012年1月、三菱重工製造の蒸気発生器が、交換して最初の運転サイクル中に、細管が振動によって腐食割れし破断するというトラブルを起こしたことによる。これは重大事故になりかねない深刻な性格の事象であった。三菱重工は、このトラブルを早期に対応して解決することができず、現地の反対運動の力もあって、原発を運用している米電力会社サザン・カリフォルニア・エジソンは、2013年6月、三菱製の蒸気発生器が使われている2基の原発の廃炉を決定した(日本経済新聞2013年6月8日の報道および文献31)。
 『週刊ダイヤモンド』は、2013年6月15日号で、当時合併を発表した日立製作所および三菱重工の電力部門について、技術劣化の可能性を警告する記事を掲載している(文献38)。以下は、同誌が掲載している日立製タービンをめぐる主なトラブルの一覧である。原発関連が多数を占めているが、タービンブレードの損傷は、各種配管に穿孔したり、機器に重大な損傷を与え、放射能漏れに繋がる可能性があるので、このトラブルの危険性に注目いただきたい。

日立製蒸気タービンで起きている主なトラブル
発表時期 電源 発電所 電力会社 トラブル内容
2012年9月 火力 上越1号機 中部 蒸気タービンの羽根1枚が折れた
2012年11月 原子力 浜岡3号機 中部 低圧蒸気タービンの羽根取付部に異常を確認
2012年12月 原子力 浜岡4号機 中部 低圧蒸気タービン3基で合計101本の羽根の欠損や亀裂
2013年3月 原子力 島根2号機 中国 低圧蒸気タービン3基で合計147本のひび
2013年4月 火力 上越1号機 中部 2012年9月に続き、再び羽根1枚が折れた
2013年5月 原子力 志賀1号機 北陸 低圧蒸気タービン4ヶ所で合計11本のひび
出典:『週刊ダイヤモンド』2013年6月15日号12ページ

 日立・三菱のタービンのトラブルは合併後も続いている。『週刊ダイヤモンド』2015年6月10日号によれば、2015年5月、関西電力姫路第二発電所3号機と5号機において、三菱重工と日立製作所の合弁企業、三菱日立パワーシステムズ製の蒸気タービンが異常振動により緊急停止した(文献32)。同発電所は最新鋭のガスタービン・コンバインドサイクルであり、昨年3月に運転を開始したばかりであった。関電の事故報告書によれば、3号機では2箇所、5号機では9箇所のタービン動翼(ブレード)の破損が確認され、その破片により3号機の復水器配管の多数に損傷箇所が発見された(文献32)。破断したタービンブレードによって生じた復水器細管の損傷は99本(破口9本、穴あき50本、凹み40本)に及んだ(細管総数は8136本)。もしこのトラブルが原発(とくに沸騰水型原発)において生じていたならば、放射性物質の重大な漏出をもたらした可能性がある。
 『週刊ダイヤモンド』誌は、三菱重工ではこれらの他にも「技術トラブルが続出」しており、「業績絶好調の陰で『技術の三菱』が揺らいでいる」「ものづくりの力が弱体化し」「現場が疲弊している」と鋭く警告している(文献33)。

 [東芝の不正会計の奥にあるもの] トラブルという点では、もうひとつの原発メーカー、東芝も例外ではない。安倍政権ととくに親密な関係にあり「国策企業」とも揶揄されている東芝は、2015年3月期に史上最高の通期3300億円という営業利益を計上するはずだったが、「不適切会計処理」が発覚して、7月にもまだ決算が確定しないという異常事態が生じている。同社は、第三者委員会の報告で総計1518億円に上る巨額の利益を水増ししたとされ追及されている(日本経済新聞2015年7月23日など)。
 週刊誌は早くから、この不正会計操作の中には「国内の原子力発電所関連の工事が含まれているという情報」を伝え、さらには「国内の原子力発電所関連の事業が大幅減収になっているが、それを補うための粉飾決算まがいの行為があった可能性さえある」と指摘してきた(文献34)。『東洋経済』オンラインによると、東芝は、2006年に米原発・核燃料メーカー、ウェスチングハウス社を買収するなど国際的な巨大原発部門を構築したが、米原子力規制委員会(NRC)によるサウス・テキサス原発プロジェクトの認可が遅れていることなどもあって、東芝の原発部門はすでに2013年度600億円の損失を計上していた(文献35)。
 合計7800億円を投入したウェスチングハウス買収をめぐっては、買収当時から「高値つかみ」と言われていた。最近の報道では、子会社資産の減損処理は現在まで行なれていないなど、評価損隠しとも見える会計操作があり、その規模は現在問題になっている「不適切会計」による利益水増しよりもさらに巨額であるという(文献5051)。さらには、2011年に23億ドルで買収したスマートメーター製造のランディス・ギア社も不振であり、両社を合わせた減損・取り崩しの必要額は、およそ9000億円あるのれん・繰延税金資産(5800億円プラス3000億円)の大部分を占めることになるであろう。ちなみに「のれん」とは買収価格から時価を差し引いた金額を資産として評価する勘定である。もしも適切に償却されておれば、東芝はすでに2009年度に債務超過に陥っていた可能性もあるという(文献50)。
 つまり、今回の不正会計が歴代経営陣の「当期利益至上主義」によって引き起こされたという第三社委員会の見解は、皮相な見方に過ぎない。東芝が置かれた客観的な危機的状況こそが、経営陣を駆り立てて、しばらくの生き残りのためにさえ「不正会計」に頼るほかない立場に追い込み、いわばそうせざるを得なくしてきたのである。その危機の基礎にあったのは、「2015年度までに新規プラントを39基受注し原発での売り上げを年間1兆円とする」という原発事業に大きく依存した経営計画であり、それに基づいた無謀な企業買収であった。「原発戦略」こそが東芝の危機の最奥の基礎であり、不正会計への衝動力の基礎であり、この点にこそ安倍側近で現在日本郵便の社長である西室泰三氏を含めて歴代経営陣の責任がある。
 今回利益を減額修正すべき1518億円とあわせれば、1兆円規模の東芝の資産がまったく架空のものであった可能性があり、そうなれば2010年度以降の利益が吹き飛んでしまうという結果だけに止まらない。『週刊ダイヤモンド』(2015年8月1日号)は「今回の不正会計は、今まで引き延ばしてきた『時限爆弾』の導火線を一気に縮めてしまう皮肉な結果になるかもしれない」という不吉な予言をしている(文献51)。

 [日本原燃、日本原子力発電] あわせて核燃料サイクルをになう日本原燃、原発による発電事業を行ってきた日本原子力発電など、電力会社出資の特殊会社も、原発が停止し、電力会社の経営状態が悪化するにつれて、経営危機に陥っている。読売新聞は社説で「現状は深刻である」として「政府が責任を持って、資金や経営の課題に対処すべきだ」と書いている(2015年7月12日付)。

 [原発は「ビジネスとしては成り立たない」] 日本経済新聞編集委員の安西巧氏は、「原発事業は商業的には成り立たない」という根本的問題を提起している。「原発ビジネスはセールスからリスク管理に至るまで政治の関与がますます不可欠になりつつある。『いまの原子力は「国家事業」だ。つまり商業的には成り立たない』(2013年10月10日付日本経済新聞朝刊「真相深層」)。米ゼネラル・エレクトリック(GE)のジェフ・イメルト会長兼最高経営責任者(CEO)のこの指摘は確かに的を射ている。日本政府や原発メーカーの経営者はどう解釈するだろうか」と(文献36)。安西氏が正しく指摘しているように結局、原発問題は集中的には政治問題なのである。

 [原発は「国家事業としても成り立たない」] ただ、安西氏がここで指摘するべきであって指摘しなかったことがある。それは、たとえ「国家事業」としても、原発は、到底経済的に成り立ち得ない重荷であり、国民的経済の衰微にいたる確実な道であるということである。原発と核産業は、それが生み出した放射能が直接に癌を生み出して人体を脅かすように、経済に食い込みその生きた血液を吸い取り経済の活力と富と技術力と労働力の再生産全体を内側から食い尽くして破壊してしまう。いま健康被害は捨象したとしよう。日本の年間の総生産GDPは500兆円程度しかない。しかもこの30年間デフレの影響もあってほとんど成長しておらず、経済的活力は失われ、労働力の再生産条件は劣悪化し、日本の経済力全体が衰微しつつある。

原発は「国家事業としても成り立たない」
出典:http://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDP&c1=JP&s=&e=

 すでに日本の財政は破綻しているが、日銀の戦時並みの無際限の国債購入によってかろうじて支えられている。その中で財政節度は失われ、教育費などの社会的経費や国民生活に関連する支出は無慈悲に切り捨てながら、将来の増税や国民負担増を前提に、政権に繋がる一部の独占企業に莫大な利益を与えるような財政支出を次々と積み上げている。戦争法案が成立すれば対米協力の形での軍事費負担はさらに増えることになるであろう。
 安倍政権の超金融緩和政策は、大幅円安誘導による輸出企業の一時的な帳簿上の為替評価益と結びついて、上層の巨大企業だけの景気回復をもたらし、株価の急速な上昇をもたらした。だが、好況は経済全体に拡大する前に、株や金融資産さらには都心の土地建物など資産バブル経済に転化しつつあり、すでに株価の極端な乱高下など新たな恐慌の切迫を示唆する現象が生じている。

 問題は、このような日本をめぐる経済状況の中で政府想定どおり福島事故が今後繰り返される場合、いかなる影響を日本経済に及ぼすであろうかということである。すでに引用したように、1回の苛酷事故で失われる社会的損失の合計は、表に出ているだけで10数兆円、実際には100兆円とされる。それがおよそ20年に1回、下手をすると10年ほどに1回、繰り返されたとすると、経済的に何が生じるかは明らかであろう。政府と原発推進勢力は、原発輸出によって発展途上国と世界に、この「経済の癌」を転移し拡大すれば、自分は延命できると考えているかのようである。致命的にならないうちに、この原発と原発推進勢力という社会の癌細胞を切除してしまわないならば、この癌は一民族はもちろん、世界の人類の生存条件を致命的に脅かしてしまうことになるであろう。

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 4.総括

 われわれは、この2030年度電源構成案を実行した場合、どのような結果が生じることになるかを、
 ――事故確率と環境面からは、22年ごと(あるいは11年ごと)の苛酷事故の反復として、
 ――経済面からは、福島原発事故の結果生じつつある健康被害・人口急減として、また電力部門の過剰設備による危機として、日本の経済力の衰微として、
 ――技術面からは、世界的に急進展する再生エネルギーを基軸とした電力技術革命からの致命的立ち後れとして、また原発・電力設備企業の経営危機と技術劣化として、
 ――政治軍事面からは、核戦争の脅威と日本の核武装の危険として、原発再稼働と日本の対米従属的軍国主義との一体性として、民主主義の危機として、それぞれ検討してきた。
 結論は、どの面から見ても同案は、自己破滅的・自殺的性格さらには理性的判断を失った狂信的性格をもっているということであった。

 小泉元首相は、鹿児島で講演し、「噴火は想定外に起きる。口永良部島もそうだが、九州は、熊本県の阿蘇山や鹿児島県の桜島もあり、しょっちゅう地震も起きている。日本では、火山がいつ噴火するか分からず、日本は原発をやってはいけない」と述べ、原発の再稼働に反対する考えを重ねて示した。また、小泉氏は将来の電力需要をどのような電源を組み合わせて賄うかを決める、いわゆる「エネルギーミックス」について、経済産業省の最終案で、2030年度時点に原子力発電の比率を「20%から22%」などとしていることを念頭に、「これからも原発の比率を20%にするというのは、再生可能エネルギーの普及を防止し、原発を維持しようと言っているのと同じだ。こんなばかげたことはない」と述べ、批判した(文献37)。
 小泉元首相の電源構成案についての「ばかげたこと」という規定は、その通りであり、再稼働反対という意味では積極的であるが、以上われわれが検討してきた内容を考慮するとまったく甘い評価と考えるほかない。周知の通り、小泉氏的脱原発の論理は、原発の危険性を主には核廃棄物の最終処分場が確保されていない点に求め、原発事故によって放出される大量の放射性物質がもたらす住民の被曝の危険性を避けているなどの弱点をもっている。だが「甘い」という点は、これらの弱点をいまは置いておくとしても言える。なぜ最低でも「福島事故のような重大事故を全国どこかで繰り返す危険がある」とストレートに言わないのだろうか。ここに、小泉氏的な、支配層側からの脱原発傾向の決定的な限界もまた見えているというほかない(文献45)。

 重要な点は、いまや脱原発と自然エネルギーへの転換が、現在の社会的生産力の要求であることである。そのような生産力の要求に応えることのできない現在の政権と政治構造、官僚制、大企業と大銀行、財界、原発推進勢力の支配は、生産力の発展にとっての越えがたい桎梏となっているということである。われわれは、結局のところ、生産力の要求が貫徹し、桎梏は打ち砕かれるにちがいないと確信する。どのような形でそれが実現されるかはいまは言うことができないが、実現されるほかないことだけは確実である。

 最後に、そのためには、安倍政権の打倒とともに、われわれが前著『原発問題の争点』(文献19)においてすでに論じたように、電力独占とくに送電網と原発関連巨大企業の民主的懲罰的国有化に向かって進んでいくことが必要となることを、最後に付言しておきたい。

 (事態は極めて流動的であり、大きく変化する可能性があるので、2015年7月27日までの情報に基づく論考であることを記しておきたい)。

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