――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
|
渡辺悦司
2015年7月27日 |
目次に戻る
第5章 風力・太陽光を基礎とした電力技術革命、その世界的進展、その中で再生可能エネルギーの導入抑制を基礎に原発を大規模再稼働する意味について
この章の目次
1.風力・太陽光発電を基軸とする電力技術革命の進展
事例1:アメリカにおける風力発電所レベルの蓄電池と電力系統周波数調整サービスとの組み合わせ
事例2:電力会社レベルでのエネルギー貯蔵・周波数安定化システム
事例3:アメリカにおける大規模太陽光発電所
事例4:スペインの自然エネルギー発電量予測システムとその中央給電センターとの統合
2.ベースロード電源という考え方は「時代遅れ」である
3.自然エネルギーは国産エネルギーであり自給率上昇にも役立つ
4.日本の電力産業の技術的立ち後れ
5.自然エネルギー革命から出てくる将来に向けての結論
すでに述べたように、政府の2030年度電源構成案の電源構成は、原発の最大限での再稼働の障害となる再生可能エネルギー導入の推進を阻止するという内容である。このことの技術的・経済的意味を考えていこう。そのためには、その前提として、再生可能エネルギーをめぐる技術的・経済的状況を検討することが必要不可欠である。
政府案に規定されている「再生可能エネルギー」には、いわゆる風力、太陽光、地熱、小規模水力などにとどまらず、旧来からの水力や一般に火力に分類されているバイオマスなども含まれている。ここでは、風力、太陽光、地熱、小規模水力を含む水力を「自然エネルギー」、そのうち風力と太陽光を国際エネルギー機関(IEA)に従って「変動性再生可能エネルギー(Variable
Renewable Energy、以下VREと略記)」、自然エネルギーにバイオマスを加えたものを政府報告書どおり「再生可能エネルギー」と呼ぶことにする。
現代の特徴は、風力と太陽光などVREを基軸とした電力技術全体の革命が世界的規模で現に進行中であり、VREを中心として電力系統を構成することが技術的にもコスト的にも可能になっただけでなく現実に実用化が進んいるという事実である(文献14、20~24)。もはや再生可能エネルギーや自然エネルギーの最大限の利用は「将来の理想」ではない。「現実に生じている電力革命」なのだ。
1.風力・太陽光発電を基軸とする電力技術革命の進展
政府や財界首脳達は、自然エネルギーの変動性は「技術的に克服できない」「ベースロード電源にはならない」という後ろ向きの、その意味で反動的な、しかも虚偽の主張にしがみついている。しかし、政府の電源構成案は無視しているが、世界では、自然エネルギーをめぐる革命的な技術革新が現在急速に進行中である。すなわち、①自然エネルギーによる発電と蓄電池システムとの結合、②自然エネルギーによる発電の天候予測システムとの統合、③電力系統(送電網)への接続管理システム、がすでに実用化され、それに加えて④余剰電力の水素転換(電気分解)と燃料電池を結合した「パワー・トゥ・ガス」システムの開発、が進んでいる。これらは「変動性再生可能(自然)エネルギー革命」ともいうべき根底からの技術革新である。「変動性が大きい」という特性は克服され、むしろ反対に、変動性を積極的に利用する技術が確立されつつある。太陽光による発電量は電力使用の山と一致し、また風力の出力は太陽光と反対方向に動く場合が多く相互補完的に使用できるからである。
以下、いくつかの事例を検討してみよう。
事例1:アメリカにおける風力発電所レベルの蓄電池と電力系統周波数調整サービスとの組み合わせ
相対的に早い事例として米国ウェストバージニア州ローレルマウンテン風力発電所とその蓄電池群を挙げることができる。同風力発電所の蓄電システムはすでに2011年に稼働を開始している。
マーチン・ラモニカ氏はこのプロジェクトについてマサチューセッツ工科大学のMIT Technology Review(2013年4月12日)に次のように書いている。
「(AES社の)ウエストバージニア州のローレルマウンテンの蓄電施設では、A123システムズ社製の蓄電池群は、容量3万2000キロワットで最長15分間、充電または放電を行うことができる。… 同社は4つの地点で、巨大なリチウムイオン電池群を用いた設備容量15万キロワットのエネルギー貯蔵プロジェクトを施行してきた。… 同社は、今週初め、容量4億キロワット時の周波数調整サービスを、PJM社(米東海岸の送電網会社)が運営する送電網の一部、中部大西洋岸諸州の電力系統に提供し始めたと発表した。… 蓄電池は、実際には16個の出荷用コンテナに装備された蓄電池群であるが、ウエストバージニア州の61基の山頂設置風力タービン(最大出力9万8000キロワット)からエネルギーの供給を受けている。シェルトン(同社長)によれば、周波数調整サービスを提供する場合、風力発電と蓄電池の組み合わせは、天然ガスおよび石炭火力発電所よりも一貫して優位にあるという。… (同蓄電施設は)地域送電網運営機関に柔軟性と安定性を提供し、それに対して報酬を支払われている。… 多くの化石燃料火力発電所とは違い、蓄電池は常時接続して使われしかも数秒以内に応答する能力がある。」(下線部は引用者が付けたもの、文献21)
まずこのシステムの規模を考えてみよう。次のことが分かる。
AES社の蓄電池設備総容量は「15万キロワット」あるが、これは瞬間供給能力で、ほぼ標準的な小規模火力発電所の発電能力に等しい。
AES社が受注した「4億キロワット時の周波数調整」は
=原発の1年間の発電量(87億6000万キロワット時)の約22分の1
=原発1基の半月分余の発電量に等しい
=瞬間能力換算では(÷8760で)約4万6000キロワット
=通常時にはAESの蓄電池能力(15万キロワット)の約3分の1弱を使用する、ということになる
次に、火力発電所の接続には10分単位の時間がかかり、数秒で接続・切断できる蓄電池は電力系統の安定に対する利点は極めて大きい。
重要な点は、単に個別の風力発電所(ウィンド・ファーム)が蓄電池と結合されて供給電力を安定化しているだけでなく、小型火力発電所規模の自然エネルギー+蓄電池+電力系統周波数調整サービスのシステムが実用化され稼働しているという事実である。これはすでに2013年はじめの時点での話である。ちなみに、ここに出てくるA123社は、経営不振に陥り、現在中国の万向集団と一部は日本のNECが買収して子会社化している。日本の支配層がアメリカのこのような最新の電力動向を知らないとは考えられない。
事例2:電力会社レベルでのエネルギー貯蔵・周波数安定化システム
個別の風力発電所レベルだけでなく、電力会社レベルでも、自然エネルギーの貯蔵および周波数安定化システムが実用化されている。アメリカの最大手電力会社デューク・エナジー社の声明(2013年1月)から以下に引用しよう。
「デューク・エナジー社の事業部門の1つ、デューク・エナジー・リニューアブルズは、本日、エネルギー貯蔵・電力管理システム(3万6000キロワット)が、テキサス州西部のノートゥリーズ風力発電プロジェクトの一環として完成したことを発表します。2012年12月、同システムは検査を完了し、完全稼動しました。… 電池蓄電プロジェクトは、余剰の風力エネルギーを貯蔵し、電力需要が最も高い時間帯にそれを放電して、風力発電の変動性を軽減する機能を担います。
同システムには、電力需要がピークとなる時間帯に再生可能エネルギーの供給を増やす働きに加えて、送電網全体を通して供給される電気の周波数を安定化させる機能があります。」(下線部は引用者が付けたもの、文献22)
すなわち、ここでも、風力発電と蓄電池システムの組み合わせによって、①風力発電所の変動性の軽減、②電力需要のピーク時に放電することによる需要変動への対応、③送電網の周波数安定化、という電力管理システムの機能が果たされていることが分かる。デューク・エナジーは関西電力と提携関係にあり、電力業界の上層がアメリカにおけるこのような動向を知らないはずはない。
事例3:アメリカにおける大規模太陽光発電所
アメリカにおいて、風力発電だけでなく太陽光発電においても大規模な発電施設の建設が進んでいる。『日経テクノロジー』インターネット版は、2015年7月2日、カリフォルニア州において大規模な太陽光発電所が次々と稼働して行っている状況を伝えている(単位は日本でよく使われるkWおよびkWhに変換してある)。
「今年6月に連系出力57万9000kW、太陽光パネルの設置容量74万7300kMWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「Solar Star」がカリフォルニア州ロザモンドで運転を開始した。世界最大規模である。年間発電量は最低でも15億6000万kWhが見込まれ、なんと一般世帯約25万5000世帯の消費電力に相当する。…プロジェクトは2013年初めに着手され、米サンパワー製の高変換効率タイプの単結晶モジュール(太陽光パネル)を170万枚以上、採用した。最後のモジュールは今年3月に設置が終わり、プロジェクトの完成となった。架台システムは、太陽の方角に合わせてアレイの向きが自動的に変わる『追尾型』になっている。
…カリフォルニア州には現在、出力容量で世界トップ3のメガソーラーが稼働している。「Solar Star」を筆頭に、55万kWの「Topaz
Solar」、やはり同じ55万kWの「Desert Sunlight」が稼働している(いずれも連系出力)。
…2014年時点で、カリフォルニア州は大規模太陽光発電・集光型太陽熱発電(CSP)で州全体の電力供給の5%以上を賄っている。同州は、電源に占める太陽光・CSPの比率が全米で最初に5%に達したという。ちなみにこの比率は、電力卸売り用のメガソーラーからの電力に限られ、分散型太陽光発電システムからの発電(230万kW相当)は含まれていない[これを含めるとおよそ570万kW、8%になる―引用者]。
…同州における大規模太陽光・CSPによる電力発電量は、2013年の610億kWhから990億kWhに大きく飛躍した。…カリフォルニア州のRPS用に設置されたメガソーラーの設置容量は、今年5月時点で340万kWを超える。
…2013年時点で州の民間電力会社による再生可能エネルギー調達量は20.9%にまで達している。さらに、各電力会社は(再生可能エネルギー・ポートフォリオ基準RPSである)「2020年33%」を満たせる再生可能エネルギーの電力量を購入契約でほぼ確保している。
…2014年における同州の再生可能エネルギー全体の内訳は、36%が風力、そして25%が地熱発電という。電力会社のRPS用電力購入契約を考慮すると2020年の再生可能エネルギー構成比(ミックス)は太陽光発電が40%を占めると予想されている。」(下線部は引用者が付けたもの、文献26)
この記事で分かるように、米カリフォルニア州では、すでに現時点で、日本政府の15年後の太陽光発電導入目標である年間855億kWh、電源構成比率7%が早くも達成されているのである。電源構成案が計画段階ですでにどれほど世界の水準から「時代遅れ」になってしまったかは明らかであろう。
事例4:スペインの自然エネルギー発電量予測システムとその中央給電センターとの統合
畑陽一郎氏は、再生可能エネルギーに関する情報サイト「スマート・ジャパン」で、スペインの事例について以下の重要な指摘を掲載している。
「スペインが風力発電などの再生可能エネルギーの比率を高めることができた理由は、連系線(送電網のこと)にはない。それ以外の3つの仕組みにある。
1つは出力の予測技術。先ほどの統計にもあるようにスペインの風力の比率は2割を超える。「風まかせ」とやゆされる風力発電のために、特に強力な予測技術を利用している。REE(スペイン電力系統運用会社)は、早くも2001年に「SIPREÓLICO」と呼ばれる風力発電所の発電量予測システムを開発し、翌年から運用を始めている。この予測システムは48時間先までの電力量を1時間単位で予測可能だ。予測値は15分ごとに更新する。予測精度は年を追うごとに正確になっている。全設備容量に対する二乗平均誤差は、現在、1時間後の予測で1%以内、24時間後でも4%以下だ。
同システムは、2006年に開設されたREEの中央給電センター「CECRE」と完全に結び付いている。CECREの目的は全国の系統を安定化させることだ。CECREは、出力10MW(1万kW)以上の風力発電所と通信回線で結合されている。出力値の更新頻度は12秒と短い。これが再生可能エネルギー(風力)の比率を高めることができた2つ目の理由だ。
3つ目の理由は、CECREがSIPREÓLICOの予測に基づいて、水力発電やコンバインドサイクルガスタービン発電などの調整力を計算、系統のバランスを保つ能力と権限を備えていることだ。いざというときは風力発電の解列(系統からの切り離し)も行う。
CECREの開設後、2008年にはスペイン全国の強風により、風力発電の発電比率が1日のうちに一時的に40.8%まで高まったこともある。これも無事乗り切った。」
あわせて引用すれば、スペインでは「この(2014年1~5月)5カ月の全電力量に占める再生可能エネルギー由来の電力の比率は52.7%」に上ったという(下線部は引用者が付けたもの、文献23)。
ここには、スペインにおいて、①自然エネルギーによる発電量の予測システム、②それと中央給電センターとの結合、③水力発電・天然ガス発電などのそれらへの統合、について見事に要約されている。
PAGETOP
2.ベースロード電源という考え方は「時代遅れ」である
安田陽氏は、アメリカやヨーロッパの電力系統の分析から、「ベースロード電源」という考え方そのものが「時代遅れである」という結論を引き出している。「日本では石炭火力発電や原子力発電はできるだけ一定出力を保ちベースロード電源として運転することがいわば常識のように考えられているが、海外ではその前提は崩れつつある」「ベースロード電源消滅の主な要因は水力発電、風力発電や太陽光発電など、『再生可能エネルギーの大量導入』である」「再エネは燃料費がゼロで短期限界費用が安く…(電力卸売)市場ではこれらの電源が必然的に優先的に落札される」「このように、市場で再エネが優先されるのは、経済学的に合理的な行動である」というのである。続けて安田氏は警告する。「より重要なのは、そのことを多くの日本人が知らされていない、ということである」と(文献20)。
政府や大手マスコミは、現在進行中のこの再生エネルギー革命について巧妙に隠蔽しようとし続けている。安田陽氏が言うように「再生可能エネの大量導入についてはここ5年間だけでも恐ろしいスピードで進展しているが、それら(の情報)は断片的にしか日本にもたらされていない。情報が偏るとその国や組織の末路がどのようになるかは、経営者や意思決定者であれば誰でも肝に銘じているはずである」(文献20)。しかし、残念ながら、安田氏のこの警告が、日本のトップ経営者や政府・経産省の意思決定者にしかるべく受け止められているとは思われない。
3.自然エネルギーは国産エネルギーであり自給率上昇にも役立つ
大林ミカ氏も「『ベースロード』をめぐる誤解 2030年、日本の電源構成をどう考えるか」(『科学』2015年6月号)において、「ベースロード電源」という考え方そのものが時代遅れであり、「古くさいもの」になっていると指摘している。
大林氏は、自然エネルギーが「国産エネルギー」でありエネルギー自給率の向上に役立つ点を合わせて強調している。米欧における自然エネルギーの導入は急速に進んでおり(下表)、これらの国々は2020年あるいは2030年に、電力の半分程度かそれ以上を「自給できるようになる」ことを意味しているという。またドイツでは、風力発電の増加の結果、1年間に電力卸市場価格が20%も下がったという(文献29)。フランスが2030年に自然エネルギー40%を目標としていることも注目される。いままで原発に全面的に依存してきたフランスは、「縮原発」の方針を打ち出し、原発を縮減していく方向に転換している(文献30)。自然エネルギーの導入を抑えてまで原発に再度依存しようとしているのは、主要国では日本だけである。
各国・地域の自然エネルギーの導入目標
ドイツ |
2025年 |
40~45% |
スペイン |
2020年 |
40% |
ポルトガル |
2020年 |
60% |
イギリス |
2020年 |
30% |
フランス |
2030年 |
40% |
欧州連合(EU) |
2030年 |
45%(電力目標) |
カリフォルニア州 |
2030年 |
50% |
ニューヨーク州 |
2015年 |
29% |
出典:大林ミカ「『ベースロード』をめぐる誤解 2030年、日本の電源構成をどう考えるか」『科学』2015年6月号
経産省の電源構成案はその基本目的の一つとしてエネルギー自給率の向上を上げている。しかし、もしそれを真剣に追求するのなら再生可能エネルギーの導入こそ、そのための最も有効な手段であるはずなのである。
国際エネルギー機関(IEA)は、2014年に、『電力の変革 風力、太陽光、そして柔軟性のある電力系統の経済的価値』と題する報告書を公表し、変動性再生可能エネルギー(VRE:主に風力と太陽光)を発電量の45%に高めるよう各国に勧告した。同報告書は「風力発電及び太陽光発電には、より安定的で持続可能なエネルギーシステムへの大きな貢献が期待されている」として重要性を強調し、続けて「しかしこれらは風量と日射量の変動によって制約され、常時必要な電力需給バランスを維持しなければならないという課題が発生する」と課題を提起し、それに続けて本報告書の結論として「VREの高い導入シェア―(VREの年間発電電力量の45%まで)は、長期的には電力システムにかかる費用コストの大きな増加なしで実現できる」と書いている。上記のEUの目標はこれを踏まえたものとなっているが、日本政府の電源構成案案は、IEAの勧告に真っ向から反している
PAGETOP
4.日本の電力産業の技術的立ち後れ
安田氏の警告するように、日本の電力システムは、いまや自然エネルギーを基礎とする世界的電力技術革命から決定的に立ち後れて行っている。
風力と太陽光の世界的動向との比較を挙げよう。
風力では、政府の「2030年度電源構成案」の通りに事態が進めば、2030年になっても、日本は風力発電能力で昨年2014年末のブラジルの発電能力以下でしかない。
世界の風力発電能力の上位10ヶ国(2014年末Wikipedia英語版による)
国名 |
発電能力(万kW) |
世界でのシェアー(%) |
中国 |
11,476.3 |
31.0 |
アメリカ |
6,587.9 |
17.8 |
ドイツ |
3,916.5 |
10.6 |
スペイン |
2,298.7 |
6.2 |
インド |
2,246.5 |
6.1 |
イギリス |
1,244.0 |
3.4 |
カナダ |
969.4 |
2.6 |
フランス |
928.5 |
2.5 |
イタリア |
866.3 |
2.3 |
ブラジル |
593.9 |
1.6 |
その他諸国 |
5,827.5 |
15.8 |
世界合計 |
36,955.3 |
100 |
出典:GWEC-Global Wind Statistics 2014.
注記:記載されているのは定格出力である。年末時点での数字。中国とブラジルについては暫定値。
風力発電技術での日本の立ち後れは明らかであり、日本企業は最大手である三菱重工を含めて、世界の風力発電メーカーの上位15社にはまったく出てこない。経産省の電源構成案自体が、日本の国内市場でさえ、海外メーカーが市場シェアーの3分の2をおさえていることを認めている。
例1:風力タービンでの日本企業の競争力の顕著な低下傾向
(画像をクリックすると拡大します)
出典:総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会 発電コストワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)」
太陽光発電では、風力よりは日本は上位にあることは事実であるが、電源構成案の太陽光抑制路線が進んでいった場合、この部面でも風力と同じ事態が予想される。
太陽光発電の上位10ヶ国(2014年) 総出力および年間追加出力での比較
上位10ヶ国 |
総出力(万kW) |
|
上位10ヶ国 |
追加出力(万kW) |
ドイツ |
3,820.0 |
中国 |
1,056.0 |
中国 |
2,819.9 |
日本 |
970.0 |
日本 |
2,330.0 |
アメリカ |
620.1 |
イタリア |
1,846.0 |
イギリス |
227.3 |
アメリカ |
1,828.0 |
ドイツ |
190.0 |
フランス |
566.0 |
フランス |
92.7 |
スペイン |
535.8 |
オーストラリア |
91.0 |
イギリス |
510.4 |
韓国 |
90.9 |
オーストラリア |
413.6 |
南アフリカ |
80.0 |
ベルギー |
307.4 |
インド |
61.6 |
出典:IEA-PVPS Snapshot of Global PV 1992-2014 report, March 2015[2]:15
これらの10ヶ国で世界の累積総出力および追加出力のそれぞれ85%および90%を占めている。http://en.wikipedia.org/wiki/Growth_of_photovoltaics
また、日本の太陽光発電モジュールの価格は、諸外国に比べて明らかに高く、この点でも日本の優位の消失傾向を示している。
日本における太陽光パネル価格の他の主要国との比較
出典:総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会 発電コストワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)」
電力技術のレベルを示すもう一つの指標は、電力周波数の安定性である。アメリカ、欧州は周波数の要求精度が非常に高く、日本はこの点で大きく立ちおくれている(日本の周波数誤差はアメリカより1桁程度大きく、ヨーロッパよりは5倍程度大きい)。以下Wikipedia
より引用引用しよう。
(1)北米(NERC)年間標準偏差(一分間平均値)目標値(北米は60Hz)
- 東部:0.018Hz以内、西部:0.0228Hz以内
- テキサス(ERCOT):0.020Hz以内
- ケベック:0.0212Hz以内
(2)欧州 (UCTE) 年間標準偏差(一分間平均値)目標値
- 50±0.04Hz以内:90%以上、50±0.06Hz以内:99%以上
(3)日本の電力会社が目標としている周波数偏差
- 北海道 50±0.3Hz以内、時差 3秒以内
- 中西地域 60±0.2Hz以内、(中部電力 時差±10秒以内、滞在率95%以上 60±0.1Hz)
- 東地域 50±0.2Hz以内、(東京電力 時差±15秒以内)
出典:「商用電源周波数」Wikipedia日本語版より
日本が、再生可能(自然)エネルギー技術で、とくに風力において顕著に、しかし太陽光においても同様に、国際水準から立ち後れ、国際競争力を喪失しつつあることは事実である。もしも、政府の電源構成案に盛り込まれた再生エネルギー抑制政策が2030年度まであと15年間も実施されたとすれば、進行中の世界の電力技術革命から日本が決定的に立ち後れるだけでなく、日本企業が再生エネルギー分野での国際競争から致命的に落伍してしまう結果を引き起こすであろう。
PAGETOP
5.自然エネルギー革命から出てくる将来に向けての結論
進行中の自然エネルギーを基軸とする電力技術革命によって、将来への展望も大きく変化した。現在の技術水準を前提にすれば、風力・太陽光に水力・地熱その他を組み合わせることによって、ほとんどすべての電源を自然エネルギーに依存し、それによって発電部門のCO2排出量を劇的に削減することは、現実に可能となっている――これが将来に向けての結論である。
ただ自然エネルギーの開発もまた、資本主義的進歩の本質である二面性と矛盾から自由ではあり得ない。それは大きな技術的革命ではあるが、同時にまた大資本、金融ファンド、地主などの特権層によって行われる限り、巨大な環境破壊と住民からの土地収奪、住民の生活破壊を必然的に伴わざるをえない(文献49)。
したがって、われわれが求める自然エネルギー開発に関する基本的な方向は、
(1)重大事故と住民被曝による破局的リスクを伴うほかない原発に反対する観点から、また火力発電によるCO2排出や大気汚染に反対する観点から、基本的方向として自然エネルギーあるいは再生可能エネルギーの導入を積極的に評価し、その促進を支持するけれども、
(2)自然エネルギーの開発が、巨大資本によって行われ、自然環境を破壊し、地域住民の土地を取り上げ生活を破壊する形で行われることに対する民主的統制が必要であり、
(3)自然エネルギーの開発は、①地域住民が参加し住民の利益になるような形で、②自然環境や景観が保護される形で、③集中的な大規模発電施設よりは小規模な発電施設を数多く作りそのネットワークを形成する形で、④経済全体の省エネルギーや地方分散と結びつける形で、⑤エネルギーの地産地消を促す形で、なされるように求めていかなければならず、
(4)日本の客観的な具体的条件の下では、とくに都市の家屋・建屋の屋根や構造物上の太陽光発電、ダムを造らない小規模水力発電の極めて多数の設置、洋上の風力発電などが適切であると考える。すなわち、民主的に統制された形でのメガ・ソーラーやウインド・ファームと分散型自然エネルギーシステムとの結合を要求するものである。 |