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 ◆ 「中学生・高校生のための放射線副読本」の問題点  山田耕作、渡辺悦司

「中学生・高校生のための放射線副読本」の問題点

山田耕作、渡辺悦司
2018年12月1日

 文部科学省は小学生用と中学生・高校生用の2種類の「放射線副読本」を出版し、毎年新入生に配布し、その内容を教育する予定である。これまでから批判があるたびに少しずつ書きかえられてきたものであるが、私たちは依然としてその基本的な内容に誤りや不備があり、教材として重大な問題点があると考える。
 文部科学省は、新学習指導要領において、「放射線に関する科学的な理解や、科学的に思考し、情報を正しく理解する力を、教科等横断的に育成する」ことを目的としている。この総合的な理解力を養成する観点からしても、私たちは「放射線副読本」は一面的で被曝に関する科学としては重大な欠陥があると考える。
 私たちは具体的には少なくとも次の4点が問題点であると考える。第1に福島原発事故による被曝被害の現実が無視されていることである。存在する被害が正しく記述されていない。第2にチェルノブイリ原発事故も含めて明らかになった放射線被曝の科学、とりわけ内部被曝の危険性とその科学が欠落していることである。第3に放射性微粒子の危険性、とりわけ不溶性の微粒子の危険性が無視されていることである。第4にこれまでほとんど無害のごとく扱われてきたトリチウムが多くの被害をもたらしており、その危険性を警告すべきである。
 以下、上記の4点を4章に分けて議論する。まず、現実を正しく認識することが教育の基礎である。はじめに福島原発事故による健康被害の実態を見ておこう。以下枠内の太字は「放射線副読本」からの引用である。「放射線副読本」は以下で読むことができる。
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/other/__icsFiles/afieldfile/2018/10/04/1409771_2_1_1.pdf

目 次

1章 被曝被害の現実
 1.「放射線副読本」は現実に存在する被曝被害を無視して、健康被害がないとしている
2章 内部被曝の科学
3章 低線量被曝と放射性微粒子の危険性
4章 トリチウムの危険性
 付録

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1章 被曝被害の現実


 「放射線副読本」はいう。
はじめに
特に風に乗って飛んできた放射性物質が多量に降った地域では、多くの住民が自宅からの避難を強いられました。避難した人たちは、慣れない環境の中での生活を余儀なくされました。それにも関わらず、東日本大震災により被災したり、原子力発電所事故により避難したりしている児童生徒がいわれのないいじめを受けるといった問題も起きてしまいました。
(p2)
 避難といじめの話は記述されているが、それらの原因である肝心の小児甲状腺がんなど子どもや住民の健康破壊についての記述が一切ない。ここで健康破壊と言うのは、体がだるくなったり、思考力が低下したり、免疫力が低下したりから始まり、がんや心疾患やその他いろいろな病気によりして死亡してしまうことまでを含む、放射線被曝との関連が考えられる極めて広範囲の健康影響や遺伝的影響のことである(付表を参照のこと)。放射線被曝による健康破壊こそ被害の最重要事項である。現在の子供たちの健康や未来世代の健康は避難や復興の基礎・根拠となる問題である。放射線被曝の科学こそ放射線教育の基礎である。現実の被曝被害の実態と科学的評価が正しく記述されなければならない。1-5放射線による健康への影響で一般論が議論されているが、後述のように内部被曝が軽視されるなど極めて不十分である。まず、福島原発事故の健康被害の実態を見ておこう。


 1.「放射線副読本」は現実に存在する被曝被害を無視して、健康被害がないとしている

 福島原発事故で放出された放射性物質はチェルノブイリ原発事故の放出量に匹敵し、「放射線副読本」のいうように1/7の比率とされるほど少ないわけではない。総放出量については、基本的に政府側に立っていると考えられる中島映至氏ほか編『原発事故環境汚染―福島原発事故の地球科学的側面』東京大学出版会(2014年)が、チェルノブイリと福島についてほとんど変わらないというデータを引用していることをまず指摘しておきたい(チェルノブイリ1万3200ペタベクレル、福島1万1300ペタベクレル[ペタベクレルPBqは10の15乗ベクレル]、表1.3、29ページ)
 セシウム137の大気中放出量は日本政府によると15PBqだが、放出量の評価に関しては国際的に信頼性の高いノルウェー気象研究所のストール氏らは、福島からのセシウム137の大氣放出量は20.1~53.1PBq(中央値として約37PBq)としている。
 ヨウ素131の放出量は、通常はセシウムの10倍とされていたが、最近のNHKの放送(サイエンスゼロ2018年10月28日)では、10倍ではなく、30倍だったと報道している。さらに、当事者東電からは、50倍という数値があげられている。東電からの数値50倍を採用するとヨウ素131は日本政府で750PBq、ストール氏で1850PBqとなる。これはチェルノブイリのヨウ素放出量1800PBqにほぼ等しい。あるいはストールの上限をとって(比較の対象とされる国連科学委員会UNSCEARのチェルノブイリの値が上限をとっているから)2655PBqとすると、福島のヨウ素131の放出量がチェルノブイリの1.5倍と推計できる。それ故、INES(国際原子力事象評価尺度)で計算しても大気中放出量でほぼ同等であり、チェルノブイリではなかったとされる海中への直接放出量と汚染水中への放出量を加えると福島原発事故の放射能放出量はチェルノブイリの約4倍と考えるべきで、「放射線副読本」の言うチェルノブイリの1/7というのは明らかに過小評価と考えられる。
 たとえもしこの「放射線副読本」の通りの比率と仮定しても、政府は、チェルノブイリの7分の1の健康被害が出ることは当然予測されると認めなければならないことになる。学術会議報告書は、チェルノブイリでの子どもの甲状腺がんの発症による手術数を6000人、うち死亡数を15と明記している。それなら、福島や周辺諸県でも、大まかに言って、その7分の1の860人の手術を要する甲状腺がん患者、うち2人程度の死者が、十分に予測されると言わなければならない。
 現実に子どもの甲状腺がんなど被害が出ている。米軍兵士の「トモダチ作戦」による死者は9人になり、400人が被曝の被害を訴えている。また、厚労省の人口動態調査を解析すれば、事故発生以前に比較して事故後の各種死因による死亡率が増大している。「風評」という説明は根拠がない。
 福島事故の間に放出された放射能の量については、広島原爆との比較で考えれば、被害が「ない」あるいは被害は「風評」であるという主張がまったくの嘘でありデマであることは明らかである。よく知られている通り、事故による放射能放出量と人間への長期的な健康影響の程度を評価するのに用いられる基準の1つは、環境中に放出されたセシウム137(Cs137、半減期30年)の放射能量である。

 日本政府は、福島事故で、広島原爆のおよそ168発分のCs137が放出されたことを認めている(原子力安全・保安院の2011年8月26日の発表)。もちろんこれは過小評価で、実際には400~600発分だがこの点は今は議論しないでおこう。事故で放出されたCs137のおよそ27%(UNSCEAR2013年報告)、すなわちおよそ広島原爆45発分が、日本の国土に降下・沈着した。そのうち、除染作業により回収できたのは、政府発表データで計算すると、広島原爆のおよそ5発分である。除染作業の結果、大きなフレコンバッグの山のような堆積物が福島県中のほとんどの地区に残されて、あたかも福島の「典型的な風景」のようになっている。言い換えれば、広島原爆およそ40発分に相当するCs137は、まだ福島と周辺諸県に、さらには日本全国に、拡散して残っていることを意味する。
 広島原爆40発分の「死の灰」が何の健康被害も及ぼさ「ない」という政府見解は、広島・長崎の被爆者の健康調査からだけ見てもありえない。そのような見解は、広島・長崎の原爆被爆者の悲劇を、被爆者調査の結果を全否定するものであり、被爆者とその悲劇を愚弄するものであるというほかない。以上、政府の言う、「チェルノブイリの7分の1」と「広島の原爆の168発分」にもとづいて、それによる健康被害を考察してきた。
 実際の放出量は政府の言う量をはるかに上回るものになり、それによる被害もこれまでのべたものをうわまわるものになる恐れがおおきい。しかし、現実には東北・関東に被曝被害が広範囲に存在するにもかかわらず、政府・東電は被曝被害がないとしている。小児甲状腺がんを含めて、放射線量、被曝線量、被曝被害等について必要な科学調査と分析が積極的に組織されず、それが故に存在する被害が隠されていることこそが問題である。明らかに放射線被曝によって生じたと考えるほかない子供の甲状腺がんでさえ、政府・東電はかたくなに被曝による発症を認めていない。事故直後政府から大学長や学会長を通じて「データ発表は国が行う。個々の研究者は控えるように」と伝達がなされた。まさに科学的調査の封じ込めである。ストロンチウム、ウラニウム、プルトニウム等のアクチナイド、甲状腺被曝量を科学的に測定せず、明らかにしていない。「データがない」、「関係ない」が「虚構の安全な世界」を作り出している手段の一つとなっている。とりわけ弘前大学の研究者グループが甲状腺被曝量をちゃんとした測定調査により明らかにしようとしたとき、福島県が「住民の不安を増長する」という理由で調査を終結させた。科学的検討を感情・精神的事由で阻止したのである。もちろんサーベイメーターで甲状腺被曝線量を計測したとされる測定は、感度の面と高い空間線量を遮蔽せずに行われた等の理由で科学的測定には該当しない。このような科学的データを積極的に取得しないことが被害の隠蔽に深く関与している。そこでまず、明確になっている被曝被害の実態を挙げよう。

 福島第一原発事故後、福島県が実施している「県民健康調査」のあり方を議論している検討委員会の第32回目会合が2018年9月5日、福島市内で開催された。甲状腺検査は、穿刺細胞診を行って悪性あるいは悪性疑いがあると診断された患者は3人増えて202人(うち一人は良性結節)。手術を受けて、甲状腺がんと確定した患者は2人増えて164人となった。また7月の甲状腺評価部会で公表された、検討委員会で報告されていない患者を含めると、事故当時18才以下だった子どもで、2011年秋以降に甲状腺がんと診断された患者は211人、手術をして甲状腺がんと確定した患者は175人となった。

  1-1 小児甲状腺がんの被ばくによる発症

 ①福島県の調査で2018年3月5日の発表で196人ががん及びその疑いとされている。地域分布を見ると福島第一原発に近いほど甲状腺がんの罹患率(発症率)が高い。このことは原発が甲状腺がんの原因であることを示している(図1参照)。

図1 原発に近づくほど罹患率が上がる

福島第一原発事故からの距離と甲状腺がん罹患率比の単回帰(山本英彦氏より)
※ 図をクリックすると、拡大します。

 ②福島県内の罹患率の地域分布を見ると放射性物質による土壌の汚染度の高い地域ほど罹患率が高い。このことは放射線被曝が甲状腺がん発症の原因であることを示している。図2は山本英彦医師たちによる土壌のセシウム汚染度と罹患率比である。汚染度が高いと罹患率も高く、子どもの甲状腺がんが放射性物質によって発症していることを示している。

 2 子供の甲状腺がん罹患率比と土壌の汚染度との関連 汚染度が高いと多く発症

福島第一原発事故からの距離で6群にわけた時の甲状腺がん罹患率比とセシウム土壌線量との回帰
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 ③汚染度の高い地域の罹患率が高いことは宗川吉汪氏や2017年末の福島県立医大の発表にも見られる。子どもの甲状腺がんの罹患率の地域差は最初に津田敏秀氏達によって示されている(Tsuda T. et al. ;Thyroid Cancer Detection by Ultrasound Among Residents Ages 18 Years and Younger in Fukushima Japan 2011 to 2014,Epidemiology 2016 May, 27(3)316-22.)
 2017年宗川吉汪氏は平均発症期間の精密な解析を行い、「3地域の罹患率の比較」を行った(表1参照。宗川吉汪;『福島甲状腺がんの被ばく発症』文理閣 2017年)。「この本格検査における3地域の罹患率の急激な上昇は、甲状腺がんの発症に原発事故が影響していることを明瞭に示して」いると結論している。

表1 3地域の罹患率 10万人・年当たり
 ( )内は95%信頼区間の下限地と上限値


3地域 先行検査 本格検査
13市町村 浜通り 高線量 10.5(7.5-13.5) 34.7(22.0-47.2)
12市町村 中通り 中線量 10.3(9.0-11.7) 24.7(18.9-30.5)
34市町村 その他 低線量 8.4(6.9-10.0) 14.6(8.9-20.2)

 ④放射線被曝による大人の甲状腺がんの急増
 明石昇二郎氏によって全年齢の甲状腺がんの罹患数が日本のがん統計を用いて分析された。残念ながら、2013年までのデータまでしか発表されていないのであるが、2013年には福島県の女性で2010年に比べ90%(100人から190人)の増加である。同県の男性では60%(43人から69人)増加した。大人の場合は超音波検査を行っていないのでスクリーニング効果による増加は考えられないので文字通り罹患率が増加したことを示している。

  1-2 周産期死亡率が福島原発事故後10ケ月後から急増したことが証明されている。

 「被曝安全論」者は信頼性の高い周産期死亡率(妊娠後22週から生後1週までの死亡)や自然死産率(妊娠後満12週以降の1000出産当たりの人工死産を除く死産数)のデータを無視して、不十分な調査で、人的被害がないとしている。しかし、すでに、周産期死亡率の増加は疫学を用いてハーゲン・シェアブ氏達によって証明されている。周産期死亡率が、放射線被曝量が高い福島とその近隣5県(岩手・宮城・茨城・栃木・群馬)で2011年3月の事故から10か月後より、急に15.6%(3年間で165人)も増加し、被曝が中間的な高さの千葉・東京・埼玉でも6.8%(153人)増加、これらの地域を除く全国では増加していなかった。Hagen Heinrich Scherb, Kuniyoshi Mori, Keiji Hayashi.
“Increases in perinatal mortality in prefectures contaminated by the Fukushima nuclear power plant accident in Japan - A spatially stratified longitudinal study.”
(Medicine 2016; 95: e4958)

 福島原発事故から10か月後に生じた周産期死亡率の急上昇は、事故による母親の卵胞・卵子や父親の精巣・精子、胚細胞・胎児の被曝による損傷の結果と考えられ、胎児の発育にとって重大な危険があったことを示している。この周産期死亡率の増加は、東北・関東に被曝被害が広がっていることを示すものである。同様に自然死産率が事故後9か月後から増加したことが統計学を用いて証明されている。さらに山田國廣氏は外部被曝積算線量等を評価し、それらの線量と周産期死亡率及び自然死産率との間に明確な関係があることを示している。(山田國廣著『初期被曝の衝撃』風媒社、2017年、146ページ)。

図3 周産期死亡率

周産期死亡率
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  1-3 心筋梗塞による急死

図4 急性心筋梗塞による地域別死亡率(10万人当たり)

急性心筋梗塞による地域別死亡率(10万人当たり)

   避難の有効性
 体内に取り込まれたセシウム137や134など人工の放射性元素は心臓や肝臓、腎臓に蓄積する。蓄積した放射性元素が放出する放射線によって、活性酸素(強い酸化作用を持つ酸素)やフリーラジカル(対をなしていない電子を持つ反応性に富む分子や原子)が発生する。これらが血管壁内への脂肪の取り込みを促進して冠状動脈の硬化、狭窄をまねく。同時に活性酸素は心臓や血管の細胞に慢性炎症を引き起こし、狭心症や心筋梗塞をおこす。心筋梗塞による死亡は全国に比べ福島県で増加しているが、避難した7町村では全国と同様2012,2013年に減少を示している。避難は心筋梗塞による死亡を減少させ、人命を救ったことが分かる。

  1-4 全身に見られる被曝による健康破壊

 安倍首相をはじめとする政治家や野口邦和氏などの専門家は漫画『美味しんぼ』を取り上げ、鼻血などの健康被害は被曝線量が少なく起こりえないとして批判する。
 しかし、このような議論は、放射性微粒子による微小環境での局所的・集中的被曝(アルファ線、ベータ線、ガンマ線による被曝。アルファ線、ベータ線は短い飛程により、ガンマ線に比較にならないほど密度の高い被曝を呈する)の場合の確定的影響を、全身への外部被曝の場合(ガンマ線による被曝)と意図的に混同させるものである。放射線医学総合研究所『低線量放射線と健康影響』医療科学社(2012年)によれば(110ページ)、前者は後者の1000倍とされており、放射線感受性の個人差を考慮すれば、鼻血を確定的影響として生じうるような被曝量(政府や野口氏らの言う2Sv)を局所的に受けた(ICRPの吸収線量の計測単位は「臓器ごと」とされる。この方法は被曝を受けない多量の細胞により平均化されるので低線量の計算値となる。0.2~2mSvの被曝)可能性は否定できない。また、鼻血出血以前の外部被曝・内部被曝両方による活性酸素・フリーラジカルの産生、その結果としての酸化ストレスが、全身の血管壁を傷害し、鼻の毛細血管自体を脆弱化させていた可能性も考えられる。放射線起因の鼻血である放射線医学的機序も十分に考えられるのである。
 現実に、「グーグルトレンド」を見ても東京では事故後、鼻血の検索が急増している。これは多数の関東の人に鼻血が出たことを示している。
 例えば、放射線による健康被害に関しては2012年11月に3市町村の実態調査が実施された。滋賀県木之本町を対照として福島県双葉町と宮城県丸森町の罹患率を比較したものである。その調査結果によれば、双葉町や丸森町の住民は鼻血をはじめとして様々な病状を訴えている。注目すべきはこれらの病気はヤブロコフ氏たちによってまとめられた『チェルノブイリの被害の全貌』に記された病気に共通することである。
 以下の津田敏秀氏ら岡山大、熊本学園大、広島大による調査報告を参照していただきたい。図5~7はその例である。

『低レベル放射線曝露と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査』
―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―


図5.滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比、病名は左から表題の順、図は児玉順一氏作成

滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比
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図6

滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比
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図7

滋賀県の木之本町と比較した宮城県丸森町、福島県双葉町の有病者率の比
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 野口氏ら専門家は「放射線に対する不安に起因する健康への悪影響」と根拠のない不安のように言うが、逆に「放射線被曝の健康への悪影響」が現実に存在し、体験を通じて住民が健康に対する不安におびえているのである。例えば、被曝は脳にも影響し、福島原発事故後アルツハイマー病や認知症による死亡が急増している。さらに抵抗力、免疫力がもろくて弱くなっているお年寄りの「老衰」による死亡率が急上昇している。他に胃がんの増加、白血病の増加、悪性リンパ腫の増加等が報告されている。
 このような被曝被害の現状を調査・公開し、予防医学的に被害の防止、即ち一人一人を大切にすること、人格権の保護が教育の中心でなければならない。真実を明らかにしないで正しい教育はできない。
事故後、建物や地面などの表面に付着した放射性物質をできる限り取り除いて、放射線の影響を減らすための「除染」という作業が進められたことなどによって、立ち入りが制限されていた場所にも人が住めるようになるなど、復興に向けた取組は着実に進展していますが、私たちみんなで二度とこのようないじめが起こらないようにしていくことが大切です。(p2.はじめに)
 必ずしも除染によって被曝の心配なしに住めるわけではない。周囲の山林・森林は除染されておらず、風雨に依って山間の放射性物質が拡散される。また除染によって生じてフレコンバッグに詰められた放射性廃棄物も多くは放置されたままである。また、除染作業そのものが最悪の被曝労働の一形態である。とくに放射性微粒子を吸い込むことによって、極めて多数の作業員の深刻な二次的被曝被害を引き起こそうとしている。さらにメルトダウンした炉心は環境から隔離することができず、今なお毎日600万ベクレルほどが空中へ、相当量が水中に放出されている。住民の被曝を加重し地球の環境汚染をし続けている。福島原発事故は完全には収束しておらず、依然として炉心の冷却が必要である。溶融燃料デブリや廃炉処理を含め様々な問題が残っており、見通しを立てることさえ困難な状態である。放射能汚染と健康被害が長期的なスパンを持つことに逆らって早すぎる復興を強調することは逆に人々を命の危険にさらすことにつながる。二度と原発事故を起こさないためにも、原発事故処理の困難な現実こそ伝えるべきではないのか。

 2章以降に続く


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