|
|
◆ 専門誌Epidemiologyでの論争
福島県の小児甲状腺がんの発症率の地域差は被曝線量と相関する 論文紹介者 山田耕作 |
専門誌Epidemiologyでの論争
福島県の小児甲状腺がんの発症率の地域差は被曝線量と相関する
|
論文紹介者 山田耕作 |
PDFで読む
福島県甲状腺検査の2巡目までを含めて解析すると、1巡目のみの解析と結論が逆になるという報告です。大平哲也氏たちの論文1)に対するコメント(Letter to the Editor)が加藤聡子(Toshiko Kato)氏より投稿され掲載されている2)。大平氏たちは一連の論文で福島県内における小児甲状腺がんの発症率において地域差がなく、放射性物質による汚染度との相関がないことを主張している。これらの論文は日本学術会議臨床医学委員会放射線防護・リスクマネジメント分科会の報告の中でも、福島原発事故による被曝被害を否定する重要な根拠とされている。これに対して加藤氏の解析結果と批判は次のとおりである。
大平氏らの解析によると、事故後の4年間の各地域の小児甲状腺がんの発症率が、福島県内の汚染の違いによる地域差がなく外部被曝線量と相関がない。それ故、福島県内の小児甲状腺がんの多発は福島原発事故の被曝の影響とは考えられないというものである。これに対して加藤氏は1巡目(2011-2013年度)と2巡目(2014-2015年度)の甲状腺検査の結果から、事故後6年間の発症率(小児甲状腺がん発見率)を比較した。その際、大平氏たちは事故後4カ月間の外部被曝が1mSv(ミリシーベルト)を超える住民の比率 P=66%,
55.4%, 5.7%, 0.67%を境界としてAからEの5地域に分類したとしているが、公表されている県民健康調査「基本調査」からは彼らの地域区分を再現できなかった。基本調査のデータからこの境界で改めて地域分けをすると、BとEのグループの人数が小さすぎて、同じ地域分類は統計が不確かとなるのでA地域とB地域を結合し(A+B)とし、1mSvを超える住民の比率で次のように4地域に分割している。
P(A+B)≥55.4%>P(C)≥5.7%>P(D)≥0.80%>P(E)
以下のTable 1が加藤氏の論文の結果である。各地域の外部被曝線量は、基礎調査の個人被曝線量から人数で加重平均したものである。
Table1は見にくいので再録した。
※ 画像をクリックすると拡大します。
Table 1
|
<― 1巡目 -> |
<― 2巡目 -> |
地域 |
被曝量 |
検査人数 |
がん発見数 |
発見率 |
検査人数 |
がん発見数 |
発見率 |
A+B |
1.37 |
134790 |
51 |
37.8 |
120015 |
40 |
33.3 |
C |
0.74 |
55290 |
22 |
39.8 |
47918 |
13 |
27.1 |
D |
0.50 |
80513 |
31 |
38.5 |
73900 |
13 |
17.6 |
E |
0.20 |
29880 |
11 |
36.8 |
28678 |
5 |
17.4 |
福島県 |
0.70 |
300473 |
115 |
38.3 |
270511 |
71 |
26.2 |
がん発見率は10万人当たりの発見患者人数、被曝量は外部被曝線量mSv
1巡目+2巡目を合計した解析
地域 |
がん発見数 |
発見率 |
がん発見率比 |
A+B |
91 |
71.2 |
1.32(0.77-2.23) |
C |
35 |
66.9 |
1.23(0.68-2.23) |
D |
44 |
56.1 |
1.03(0.58-1.83) |
E |
16 |
54.2 |
1(Reference) |
福島県全県 |
186 |
64.5 |
|
最後の列は汚染度の最も低い地域Eを基準とした他地域の小児がん発見率の比率(オッズ比と95%信頼区間)であるが、被曝線量が上がると患者が多く発見されている。
各地域の発見率(10万人当たりの見つかった小児がん患者数)を被曝線量に対してプロットすると以下となる。
赤い四角の点で示された6年間の小児甲状腺がん発見率の地域比較では青の1巡目と異なり明確な地域差を示している。被曝線量が高いと小児がんが多く発生しており、甲状腺がん発見率と被ばく線量の間に直線関係が見られる。加藤氏は1巡目のいわゆる先行検査では汚染度の高い地域から検査を開始したため、原発事故から検査までの経過期間が短い高汚染地域で発症数が少なくなり、高汚染による患者数の増加と相殺し地域差が小さくなったのではないかと指摘している(地域Aは1.4年でEは2.8年)。6年間で見ればその効果は弱められるから、適切な説明と考えられる。
なお大平氏たちから加藤氏への反論も寄せられているが、自分たちの古い地域差のない論文を根拠に反論していて説明になっていない。3) 1巡目検査では事故1.4年後の高汚染地域のがん発見率と2.8年後の低線量地域のがん発生率が同程度であるから、検査までの期間はがん発生と無関係と主張し、他方2巡目では1巡目―2巡目検査間隔とがん発生率と関係すると全く矛盾した主張がなされている。さらに大平氏たちは論文1)Table最終行で、原発事故から甲状腺検査までの期間に対する補正として、事故後2.8年後検査の低汚染地域Eを基準とした高汚染地域の甲状腺がん有病比率を逆(-)方向に大幅にシフトさせるという誤りを犯している。甲状腺検査報告では、1-2巡目検査間隔の長い高汚染地域ほど2巡目の甲状腺がん発生率は高い。1巡目の高精度の超音波スクリーニング後にも甲状腺がん発生が継続し、時間経過とともに増えている。福島県内の小児甲状腺がんの多発はスクリーニング効果のみによるとの説明は不可能であろう。
加藤氏の解析は4年間の調査結果を6年間に拡張するという当然の方法で、事故4年後では見つからなかった甲状腺がん発生と被ばく線量の関係を明らかにして真実を探り当てた研究であると考えられる。
参考文献
- Ohira T, Takahashi H, Yasumura S, et al. for the Fukushima Health Management
Survey Group. Associations between Childhood Thyroid Cancer and External
Radiation Dose after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident.
Epidemiology, 2018; 29: e32–e34
https://journals.lww.com/epidem/Fulltext/2018/07000/Associations_Between_Childhood_Thyroid_Cancer_and.28.aspx
- 福島県立医大の甲状腺がん地域差なし、論文への反論、Epidemiologyで公開。
Re: Associations between Childhood Thyroid Cancer and External Radiation Dose
after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident
Kato,Toshiko
Epidemiology.30(2):e9-e11, March 2019.
doi: 10.1097/EDE.0000000000000942
https://journals.lww.com/epidem/Fulltext/2019/03000/Re__Associations_Between_Childhood_Thyroid_Cancer.26.aspx
- 大平氏らの反論
the Authors Respond
Ohira, Tetsuya; Takahashi, Hideto; Yasumura, Seiji
Epidemiology.30(2):e11, March 2019.
doi: 10.1097/EDE.0000000000000941
https://journals.lww.com/epidem/Fulltext/2019/03000/The_Authors_Respond.27.aspx
|
PAGETOP |
|
|
〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55-1 コーポ桃山105号室
tel/Fax:075-622-9870 e-mail:shimin_sokutei@yahoo.co.jp
|
|
|