ウソで塗り固めた復興庁パンフ『放射線のホント』
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山田耕作、渡辺悦司
2018年5月24日 |
目 次
- はじめに
- 1.放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできません。
- 2.放射線は移りません
- 3.放射線の影響は遺伝しません
- 4.放射線の健康への影響はある・なしでなく量が問題です
- 5.100~200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらいです
- 6.東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていません
- 7.原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されています
- 8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7でした。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかったのです
- 9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになりました
- 10.日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっています
- では、子どもたちが皆このパンフを信じ、「安全安心」と思って放射線に被曝をしたら、いったい何が起こるか?
- 結論
-
- 参考文献
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安倍政権は最近、放射線被曝に関連して以下の子ども向け・一般向けのパンフレットを公表している。
- 復興庁パンフ『放射線のホント』(pdf)
- 特集『マンガで学ぶ放射線のホントの話』
これらにおいては、ほぼ同じ内容がマンガも交えて提示されている。以下、上の両文書を「復興庁パンフ」と呼び、問題点を順に明らかにする。
政府の主張は次の10項目であるという。これらの主張は、われわれがすでに批判した3つの文献(日本学術会議「子ども被ばく」報告書、野口邦和ら『しあわせになるための「福島差別論」』、復興庁「風評払拭強化戦略」)の要点を整理し単純化し一面化したものである。偽りに基づき、子供にも「被曝の安全性」を信じこませようとする危険なものである。
政府の言う「放射線10のポイントと大切なこと」
1.放射線はふだんから身の回りにあり、ゼロにはできません。
2.放射線は移りません。
3.放射線の影響は遺伝しません
4.放射線の健康への影響はある・なしでなく量が問題です。
5.100~200ミリシーベルトの被曝での発がんリスクの増加は、野菜不足や塩分の取り過ぎと同じくらいです。
6.東京電力福島第一原子力発電所の事故の放射線で健康に影響が出たとは証明されていません。
7.原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されています。
8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7でした。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかったのです。
9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになりました。
10.日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっています。
以下、これらを検討する。
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全ての放射線は危険である。だから被曝をできるだけ避けるというのが正しい態度である。医療のための放射線は、より危険な病気を治療したり、予防するためにやむを得ず使用されている。決して安全でなく、できるだけ被曝量を少なくし、過剰被ばくを避けるべきである。特に医療被曝のCTなどの平均被曝量(政府パンフは3.9mSvという)は危険である。オーストラリアの68万人の調査で平均4.5mSvのCTによる被曝で小児がんが24%増加した。この比率を適用するとCTによる3.9mSvの被曝は小児がんを21%増加させることになる。
さらに重要で、注意すべきことは「復興庁パンフ」が無視している放射性物質の危険性の質的・量的な違いである。一般的に放射線について述べながら、もっとも危険な内部被曝を無視することは誠実な広報と言えない。
人工の放射性物質は一層危険である。放射性微粒子を含む内部被曝はとりわけ危険である。しかも福島原発事故が放出した放射性微粒子には、水や酸や脂肪に溶けないガラス状の「不溶性放射性微粒子」が多く含まれ、このような特殊な性質の放射性微粒子が大量に環境中に放出されたのは歴史的に初めての事態である。欧州放射線リスク委員会(ECRR)の2010年勧告によれば、このような形態のセシウム137が体内に取り込まれた場合、外部被曝やカリウム40による内部被曝に比較して400倍~5万倍も危険であると推定されている。この点で人工の放射性物質による内部被曝を特に回避しなければならない。
病気と同じように「移る」ことは「ない」のは当然のことである。ただし、放射性微粒子の拡散による被曝やホット・スポットの存在は注意すべきである。十分に注意し対策をとらなければ、放射性微粒子とくに不溶性微粒子は、靴や履き物、衣服や帽子、頭髪や皮膚から自動車やトラック・バス・鉄道車両に到るまでの様々な移動手段に付着して「移ってくる」。それにより、居住スペースや職場、駅や空港や交通機関、人や車の集まる場所、ビルや公共施設などが再汚染され、家族や同僚、勤労者やドライバー、旅客や通勤通学客、観客や観光客など広範な住民・市民に放射能汚染を「移す」危険がある。
また、汚染地域を旅行して、外部被曝したり、放射性微粒子とくに水に溶けない不溶性放射性微粒子を肺に吸い込んだりした場合、被爆の影響は、何十年の長期にわたり身体の中に残り、体内で蓄積していく。その意味では、放射能汚染は、見えない菌やウイルスと同じように「見えない敵」として外から「移ってくる」と言える。
「遺伝し、後の世代に継承されることが多い」が正しい。「復興庁パンフ」は科学的真実に反する宣言である。国連科学委員会は、2001年報告書において、「被ばく後第1世代」の「全遺伝リスク」を1万人・Svあたり30~47例としている。つまり、被曝すれば遺伝的影響が「ある」ことを公式に認めているのである。国際放射線防護委員会(ICRP)の2007年勧告も同じく遺伝的影響をリスクとして認めている(1万人・Svあたり4例)。これらは、もちろん著しい過小評価であるが、国連科学委員会もICRPもはっきり遺伝的影響は「ある」と判断しているわけである。
さらに言えば、遺伝的影響のような、数世代を経なければ明らかにならない事項を、最初から「ない」と断言することはデマに等しい。事故後32年を経たチェルノブイリでは慢性的な病気が幾世代にもわたって継続することが重大な社会問題となっている。
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何事も質と量の「両方」が問題である。「量だけ」は科学に反し、この記述は教育の根本を歪めるものである。質的な違いを無視しているため、「復興庁パンフ」は外部被曝に比べて内部被曝が桁違いに危険であることが理解できないのである。
「復興庁パンフ」はがんのみを被曝による病気としている、しかし、これはチェルノブイリ事故で明らかにされた、「長寿命放射性核種取り込み症候群」という全身に及ぶ多様な病気を考慮していないことになる。それらの病気は内部に取り込まれた微粒子の放射線によって発生した反応性の高い、活性酸素やフリーラジカルによって脂肪膜である細胞膜や細胞内の小器官、ミトコンドリアなどが破壊されることを通じて発生する。そのような病気が世代を超えて継続することがわかってきたのである。
また、復興庁パンフは、個人個人の放射線に対する影響の受けやすさ(放射線感受性)の大きな違いを無視している。同じ線量で被曝しても、胎児や乳幼児、子どもや青年、女性、がん年齢に達した中高年、DNA修復に関連する遺伝子変異をもつ人々(ECRRでは人口のおよそ6%)などは、平均値に対して被曝リスクが何倍何十倍も高いことがわかっている。またこれらの性質が諸個人で重複する場合(たとえば遺伝子変異を持つ女児など)、さらに感受性の相違の幅は大きくなる。復興庁パンフは、これらの人々を同じ被曝「量」によって扱うことによって、このような放射線高感受性の人々の生きる権利、基本的人権を奪おうとしている。
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「政府パンフ」は発がんのリスクを広島・長崎の原爆の被曝調査に基づき、1.08(被曝による発がんリスクが8%増)にしているが、次の問題点がある。
(1)被曝リスクは広島・長崎の調査よりもっと高いことが明らかになってきた。例えば、医療被曝で10mSvごとにがんが3%増えた。100mSvだと30%、200mSvで60%の増加となる。間をとって45%増としても、8%の増加分が5.6倍になる。オーストラリアのCTによる小児がんでは4.5
mSvの被曝でリスクが24%増えた。
(2)対照とするリスクの期間が相違している。リスクの比較で「野菜不足や塩分の取り過ぎ」は10年間継続した場合であるが、被曝の影響は生涯にわたるとして、50年や70年間のがんの発生やがん死をとっており、観察期間が異なる。それ故、それらの比較は本来信頼できない。そもそも野菜不足や塩分の取り過ぎの定量的な定義を指定しなければ科学ではない。それもせずに比較することは意図的に誤解を与えるものであり、教育用の教材として不適切である。
(3)「野菜不足や塩分の取り過ぎ」のリスクを放射線被曝リスクと同じ50年に換算した場合、その比較リスクは1度の被曝での放射線「致死量」に到達する(1Svで数ヵ月以内での10%未満致死量の下限値、3Svで60日以内での半数致死量の下限値)。つまり、「野菜不足や塩分の取り過ぎ」で数ヶ月以内に死んでしまうことになる。このような比較そのものが無意味でありナンセンスなのである。
(4)そもそもこのような発がん要因を個々に切り離すことは複合的に起こるがんの発生と死を正しく解析していない。子どもたちに誤った理解をさせる。ネオニコチノイドなどの農薬との複合汚染も危険である。
本来、事故を起こした加害者である政府や東電は、このような偉そうなことは言えないのである。政府の公式推計によっても福島原発事故の大気中への放出放射能量はセシウム137ベースで広島原爆の168.5発分である。これは大きな過小評価である(実際にはこの3倍以上)が今は置いておこう。うち、日本の陸土に沈着したのは、これまた公式推計でおよそ27%、45発分である。このような大量の放射能が「全く健康影響をもたらさない」という主張は、最初から嘘でありデマであるというほかない。
チェルノブイリとの比較でも同じである。政府の言う10分の1の放出量であろうが7分の1の放出量であろうが(これもまた著しい過小評価であるが、もしそうだと仮定しても)そこからは10分の1や7分の1の被害が当然想定される。最初から決して影響が「全くない」という論拠にはならない。こんなことは子どもにも明らかであろう。実際には、国際原子力事象尺度(INES)でほぼ同等であり、海水中・汚染水中への放出量を入れれば、最低でも3倍以上である。
「100mSv以下は影響がない」という論議も同じである。もし政府がそれを真剣に主張するのであれば、政府が現在住民を帰還させようとしている年間20mSv/yの地域には、5年以上居住すると「影響がある」と主張しなければならないであろう。だが政府も政府側専門家もそれについては何も言わない。つまり、不誠実なのである。信義誠実の原則に反しているのである。
健康に影響が出ていないことを証明することは、時間的・空間的に膨大な調査を要することである。調査が不十分な段階で、このような広報を政府が行うことは、結論を誤る可能性が高い。また事実、誤っている。しかも、国際的な合意である予防原則「ある行為が人間の健康あるいは環境への脅威を引き起こす恐れがある時には、たとえ原因と結果の因果関係が科学的に十分に立証されていなくても、予防的措置(precautionary measures)がとられなくてはならない」(予防原則に関するウィングスプレッド合意声明より引用、同原則は、環境と開発に関する国連会議、EUマーストリヒト条約、オゾン層に関するモントリオール議定書などにおいて何度も確認されている)に反することである。この原則が一言も触れられないのは被災者の人権を無視するものである。
しかも、現実に健康に影響が出ているのである。住民・市民の健康を守る立場からは被曝被害を警告し、チェルノブイリのように1mSv/yから避難の権利を認めなければならない。被害が出てからでは遅いのである。
現実には害が出ていること、被曝調査の検出精度は悪く信頼性に乏しいことは証明済みのことである。
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7.原子放射線の影響に関する国連科学委員会の報告書では東電の福島原発事故で亡くなったり、重い症状となったり、髪の毛が抜けたりした人はおらず、今後のがんの増加も予想されず、また多数の甲状腺がんの発生を福島では考える必要はないと評価されています
事実に反する評価に基づく記述である。これはすでに発生している福島原発事故での甲状腺がんの報告に反している。放出放射線量による地域差も証明されている。双葉町や丸森町の調査で鼻血をはじめ様々な症状が報告されている。
子どもの脱毛については、関東からの避難者の証言からも、現実に起こっていたことが証明されている。
「原発事故で亡くなった人はいない」というが、事故当時の発電所長であった吉田昌郎氏の58歳でのがん死(食道がん)のことは隠しているか忘れているだけである。
国連科学委員会の予想が外れていたのである。安全宣言をした政府や科学者は被害者に対して責任を取らなければならない。
本来、国連科学委員会は、世界平和と各国国民を放射線被害から防護するための機関ではない。米国・ロシア・中国など核保有国の強い影響力の下、核兵器保有を正当化し、核実験の被害を過小評価し、核兵器製造・原発・核燃料サイクルの運転や事故による被害を認めないための、核兵器開発・原発推進・原子力利用推進のための世界の核大国(われわれはそれを国際核帝国主義と呼んでいる)の機関である。そのような機関が、福島原発事故被害を公正に科学的に判断することはありえない。日本国民の健康と発展の利益を考えることなどありえない。
国連科学委員会は、チェルノブイリ事故に対する対応にお いて明らかなように、原発事故被曝の影響は全く「ない」とすることによって、特定の目的、科学「外」の利益を追求していると評価せざるを得ない。それは、原発推進上の利害にとどまらない。①事故を起こした政府が被曝防護策をとることを可能なかぎり妨害し遅らせ、②可能なかぎり多くの当該国の国民を、事故を起こした政府自身の手によって被曝させ、事故を起こした国の被曝被害をできるだけ大きくし、③それによって、ソ連の場合は社会主義の崩壊を促し、日本の場合は競争相手としての日本の経済力・国力・人口・社会的基盤を可能なかぎり大きく長期的に破壊し毀損し損耗させることである。
日本の歴史上最も愚かな指導者の一人である安倍首相は、自らこのアメリカを先頭とする国際核帝国主義の手先となり、汚染地域からの住民の・特に子どもや妊婦の避難を組織すべきところ、反対に子どもや妊婦も含めて汚染地域に住民を帰還させ、自国民を可能なかぎり被曝させ、可能なかぎり大量に病気にさせて被曝死させ、さらには危険な原発再稼働により次の原発苛酷事故を引き起こすリスクを自ら追求し、あたかも自ら進んで「自国の」帝国主義的基盤を弱体化させることによって、日本帝国主義に敵対する、核武装した外国帝国主義諸国家の「手先」として振る舞っているかの行動をとっている。おそらく誰もが認めるであろう日本史上最悪の首相の1人である東条英樹でさえ、米軍の都市爆撃による子どもの予想される被害を避けるために数十万人規模の児童生徒と妊婦の疎開を決断した事実を想起しよう。子どもと妊婦への配慮という点で見れば、安倍首相は「東条英機以下」である。安倍首相の下では、自国民に対する「知られざる核戦争」(矢ケ崎克馬氏)が行われているのである。
日本国内の最も保守的で右翼的なグループに支えられている安倍政権は、被曝と原発の分野において、国連科学委員会の名の下に、右翼が本来主張すべき「愛国主義的」「民族主義的」(すなわち帝国主義的)主張から見てさえも、最も「反民族的」で「売国的」な政策を進めているのである。
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8.福島原発事故で空気中に放出された放射性物質の量はチェルノブイリの1/7でした。また、避難指示や出荷制限など事故後の速やかな対応によって、体の中に取り込まれた量もずっと少なかったのです
これも間違いであることが示されている。体内に取り込まれた放射能量がチェルノブイリより「ずっと少なかった」ということをいくら主張しても、福島原発事故の放出放射能による健康被害が「全くない」「ゼロだ」という証明にはならないのは、子どもの判断力で十分明らかであろう。くり返すが、仮にこのとおり7分の1と仮定しても、被害はゼロではない。ゼロというのは嘘でありデマである。当然7分の1程度の被害を想定しなければならない。
実際には、大気中放出量は少なくとも同等程度である。また、早野龍五氏などのホールボディカウンターを用いた内部被曝の測定も検出限界が300Bq/kgであり、精度が悪い。福島の子どもの70%に検出されているという報告のある精度の高い尿中のセシウム137を測定すべきである。
9.福島県内の主要都市の放射線量は事故後7年で大幅に低下し、国内外の主要都市と変わらないくらいになりました
福島市の公式発表値0.15マイクロシーベルト/hは、原発事故以前の0.04マイクロシーベルト/hより依然として高いことを示している。しかも、モニタリングポストの数値が周辺の線量より5から6割の低い値であることが矢ケ崎名誉教授などの「市民と科学者の内部被曝問題研究会」の調査で報告されている。数値は操作されている可能性が高い。都市から離れた山間部は除染されていない。山林から風や雨で拡散する。人々は主要都市のみで過ごすわけではない。山間部や農地でも過ごすのである。
また仮に、事故後7年を経て、短寿命の放射性核種が崩壊して、全体としては放射線量が低下した事実があるとしても、すでに今までに被曝した放射線による影響は「レガシー」として人々の体内に残り続け、5年後・10年後・数10年後に影響を現す危険性があるのである。これが放射線被曝影響の本質的特徴である。「線量が下がったら安心安全」ということには決してならない。それも嘘である。
国際環境団体グリーンピースは、2018年2月に調査結果を発表し、「避難解除地域の放射能は深刻、住民の帰還誘導は人権侵害」と批判した。福島原発から西北西方向に20キロメートル離れた浪江地域の大堀村では、時間当たり11.6マイクロシーベルトに達する放射線量率が測定されもした。これは年間被曝量101ミリシーベルトに該当する。
10.日本は世界で最も厳しいレベルの基準を設定して食品や飲料水の検査をしており、基準を超えた場合は売り場に出ないようになっています
これも安全性を示す根拠ではない。「最も厳しい」というのは嘘である。日本ではコメは100ベクレル/kgであるがウクライナのパンは20ベクレル/kgである。基準を超えなくても安全でないのは基準が緩すぎるのである。しかも加工食品は基準が緩く200ベクレル/kgである。最近のNHKの放送で飯館村の測定器はkgあたり50ベクレルに設定してあるとのことであるが、この基準は高すぎ危険である。日本は飲料水が10ベクレル/kgであるが、ウクライナは2ベクレル/kgである。
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では、子どもたちが皆このパンフを信じ、「安全安心」と思って放射線に被曝をしたら、いったい何が起こるか?
復興庁パンフの意味は、その意図するところが実現し、日本の子どもたちも大人たちも皆この復興庁パンフを信じ、政府の基準通りの放射線に被曝しても「安全安心」と考え、自ら進んで放射線に被曝する事態が起こったと仮定したら、いったい何が起こるだろうか?を考えてみれば明らかである。
この問題には重要な意味がある。復興庁パンフが、①大規模再稼働などにより起こることが想定されている次の原発重大事故に向けての準備であり、②放射能で汚染された除染残土や廃炉廃棄物の再利用をさらに進めるための宣伝手段であり、③さらにはアメリカと一体となった「使える核兵器」による核戦争に向けての準備であることは明らかであるからである。
原子力規制委員会の更田豊志委員長は、一般住民の1mSv/y基準を、現行の空間線量に換算して0.23μSv/hから、1μSv/hに解釈改訂し、係数操作によって、大幅に(4倍に)引き上げようとしている。これは、バックグラウンドとして0.05μSv/hをとれば、年間被曝量に換算すると8.32mSv/yである。
このレベルの線量を、日本の全人口約1億2600万人が被曝しても容認されるというわけである。だから、その仮定の下で何が起こるか考えてみよう。その場合の集団線量はおよそ105万人・Svということになる。被曝のリスクは既知の内容であり、放射線医学の教科書に明記されている。日本政府の放射線医学総合研究所の文書によれば、いろいろな国際機関による10万人が0.1Gyの被曝をした場合の(すなわち1万人・Svあたりの)被曝リスクは426~1460人程度の致死である(以下の表参照。放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響 改訂版』医療科学社[2012年]109~110ページにある)。
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出典:放射線医学総合研究所編著『低線量放射線と健康影響 改訂版』医療科学社(2012年)。
注記:赤線は引用者(渡辺)が付けたもの
つまり、もしも更田委員長の主張が実現した場合、基準通りの被曝によって、およそ4.5万~15.3万人の過剰な死者が1年間の被曝に対して生じる可能性があることになる。これは10年間で45万~153万人、一般に考えられる生涯期間50年間では225万人~765万人となる。
子どもで考えてみよう。日本の子ども(15歳以下)の人口は、現在、およそ1556万人である。子どもの放射線感受性がICRPの評価通り平均の3倍として計算してみると(実際には10倍程度だがこの点も置いておこう)、政府の意図する住民被曝基準で被曝した場合、子どもの集団線量は年間でおよそ38.8万人・Sv相当となる。上記の政府の研究機関発表のリスク係数で計算すると、およそ1.7万~5.7万人の過剰な致死が1年間の被曝に対して想定される。すなわち、10年間で17万~57万人、その後子どもでなくなって感受性が1に戻ると仮定しても、生涯期間(子どもの場合70年間)では51万~171万人の過剰死となる。
政府の実質的な住民の被曝基準は、現在の避難措置解除・帰還基準である20mSv/yである。だが、この20mSv/yは、規制委の新解釈による空間線量では20μSv/hである。年間に換算すると174.8mSv/yである。10万人をこのような汚染地域に帰還させれば、年間の被曝により745~2252人の生涯期間の過剰死が予想される。50年間では最大値の場合、全員が過剰死となってしまう危険性があることになる。子どもについては、リスク係数が最大値の場合、子どもである20年間に、過剰死のリスクが全員に達して、文字通りの「ジェノサイド」が予想される。
つまり、政府・復興庁の意図が実現した場合、大きく過小評価された(おそらくゴフマン氏の8分の1からECRRの40分の1まで)政府関係文書記載のリスク係数によっても、日本国民の大量死、全般的健康状態の悪化、労働力の再生産の破壊という結果が十分予想されるのである。それには支配階級も被支配階級もない。社会階級や社会層の違い、社会的経済的格差を超えた国民的危機なのである。「美しい日本の再建と誇りある国づくり」を掲げる「日本会議」の権力とも言える安倍政権が実施しようとしているのは、実際には、日本国土の限りない放射能汚染と国民への放射線被曝の強要による自国民の健康破壊と大量殺戮のである。
以上のように「復興庁パンフ」単に間違いというどころではなく、意識的に真実や科学的真理に反する「被ばく安全論」を展開していることになる。
参考文献:
(1)学術会議報告(2017年9月1日)「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」の問題点
(2)復興庁の「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略」批判
――こんな安全宣伝を政府がやって生命の危険にさらしてよいのか
(3)「しあわせになるための『福島差別』論」批判
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