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 ◆ 原発・再処理施設から放出されるトリチウムと白血病の関連
   元・純真短期大学講師 森永 徹(医学博士)

原発・再処理施設から放出されるトリチウムと白血病の関連

元・純真短期大学講師 森永 徹(医学博士)
2018年5月13日、こどもみらい館・京都

【はじめに】
【玄海原発稼働前後の佐賀県内自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率の変化】
【玄海町、唐津市、佐賀市と全国の白血病死亡率の推移】
【通常運転中の原発からの放射性物質の放出はトリチウム(放射性水素)が圧倒的に多いが、中でも玄海原発は全国一トリチウム放出量が多い】
【トリチウムは原発から垂れ流されている】
【トリチウムはベータ(β)線を出して、ヘリウムに変化する】
【トリチウムは生物を汚染し、生物中で濃縮される。白血病を誘発する傾向もある】
【成人T細胞白血病(ATL)の影響を考慮しても玄海町の白血病は多い】
【玄海町とその周辺の白血病の多発の要因は、玄海原発から放出されるトリチウム以外には考えられない】
【六ヶ所村の核燃料再処理施設からはアクティブ試験段階で大量のトリチウムが放出されている】
【まとめ】


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※ このページで紹介している図の一部はスライドpdfから取っているものがあり、pdfの画像と若干違います。指し示す内容は同じものです。


【はじめに】

 玄海原子力発電所が立地する玄海町や隣接の唐津市で、白血病による死亡率が増加しているということが指摘されている。そして、このことを理由の一つとして玄海原発の再稼働差し止めを求める訴訟が起こされている。一方、九電は白血病の増加は高齢化によるものであると反論している。また、インターネット上では西日本に多い「成人T細胞白血病」が原因とする意見もみられる。真実はどうなのか。「人口動態統計」や各種文献をもとに検討するとともに、合わせて核燃料再処理施設がある青森県六ヶ所村周辺の白血病死亡に関しても検討したい。

【玄海原発稼働前後の佐賀県内自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率の変化】

 佐賀県内20自治体毎の原発稼働前(1969~1976年)および稼働後(2001~2012年)の厚生労働省発表の「人口動態統計」による年平均白血病死亡率(人口10万対)と玄海原発から各自治体までの距離の関連をみた。距離は玄海原発から各自治体庁舎までの距離とした。

 なお、玄海原発1号機の稼働は1975年10月であるが、トリチウム被曝と白血病死亡までには3年のタイムラグがあるという指摘があり(Richardson & Wing. :Am J Epidemio. 2007)、1976年までを稼働前に含めた。

図1) 佐賀県自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率(稼働前)
図1) 佐賀県自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率(稼働前) ↑クリックすると拡大します

図2) 佐賀県自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率 (稼働後)
図2) 佐賀県自治体の玄海原発からの距離と白血病死亡率 (稼働後) ↑クリックすると拡大します
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 玄海原発稼働前も玄海町、唐津市では白血病死亡率がやや高いが、玄海原発からの距離と白血病死亡率の関係を示す回帰式は、y(白血病死亡率)=-0.0577x(玄海原発からの距離)+6.0076 であり、玄海原発に17.3km近づく毎に10万人当たり1人、白血病死亡率が増加するというごくわずかな影響でしかない(図1)。

 稼働後は、稼働前と比較すると負(マイナス)の傾きが大幅に大きくなっている。両者の関係を示す回帰式は、y(白血病死亡率)=-0.2402x(玄海原発からの距離)+20.859 であり、玄海原発に4.1km近づく毎に10万人当たり1人、白血病死亡率が増加するというものとなった。稼働前と比較すると4倍以上の増加率となっている。そして、玄海原発からの距離と白血病死亡率の間には相関係数r=-0.809と強い負の相関がみられた(図2)。

 なお、玄海原発稼働前も玄海町、唐津市では白血病死亡率がやや高く、これは成人T細胞白血病(ATL)の影響と考えられるが、この要因として「日本人集団の二重構造」が考えられる。「日本人集団の二重構造」とは東南アジア系のATLの原因ウイルス、HTLV-1の感染率が高く沿岸部で採集生活する縄文人がいた日本列島に、弥生時代以降にHTLV-1感染率が低く内陸部で農耕生活する北アジア系の弥生人が渡来したことによる二重性の ことであリ、両者は徐々に混血したが、その過程は現在も進行中である(埴原和郎:日本人のルーツ.日本老年医学会雑誌.1993)とされ、この影響が現在もわずかながら残っているためと考えられる。

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【玄海町、唐津市、佐賀市と全国の白血病死亡率の推移】

 次に、玄海町、唐津市、佐賀県、全国の玄海原発稼働前からの「人口動態統計」による8年毎の年平均白血病死亡率の推移をみた。8年毎としたのは玄海町の人口、つまり母集団が少なくバラつきがあるためにそれを補正するためである。まず、単年度で見ると、玄海町と隣接の唐津市では1983年から増加傾向がみられ、1985年からは高止まりしている(図3)。佐賀市、全国も増加傾向がみられるが、これは高齢化にともなうものと考えられる。玄海町と唐津市においても高齢化は進行しているが、白血病死亡率の増加はそれをはるかに上回るものとなっており、この増加を高齢化で説明することは困難である(図4)。

図3)玄海町、唐津市、佐賀市と全国の白血病死亡率の推移
図3)玄海町、唐津市、佐賀市と全国の白血病死亡率の推移

図4) 玄海町、佐賀県と全国の高齢化率の推移
図4) 玄海町、佐賀県と全国の高齢化率の推移

 3年のタイムラグがあるという研究は原発や原子力施設が集積するサバンナ川地区の労働者でのものであり、原発周辺の住民の被曝は原発関連労働者の被曝ほどは大きくなく、10年のタイムラグが生じたと考えられる。

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【通常運転中の原発からの放射性物質の放出はトリチウム(放射性水素)が圧倒的に多いが、中でも玄海原発は全国一トリチウム放出量が多い】

表1) 各原発からのトリチウム放出量 (2002~2012年)
原発名 原発立地自治体 トリチウム
放出量(テラBq)
放射性希ガス
放出量(ギガBq)
放射性ヨウ素
放出量(メガBq)
加圧水型 玄海原発 玄海町 826.0 1,880.6 12.54
川内原発 薩摩川内市 413.0 186.2 0.16
伊方原発 伊方町 586.0 2,043.0 1.906
高浜原発 高浜原発 574.8 1,355.8 1.754
大飯原発 おおい町 768.0 1,954.3 194.17
沸騰水型 島根原発 松江市 4.3 N.D. 0.16
柏崎刈羽原発 柏崎市 刈羽村 6.9 N.D. 47.4
女川原発 女川町 0.2 5,820.0 28,000.0
東通原発 東通村 0.7 N.D. 0.88
 N.D.:not detectable,検出限界以下(データ出典:原子力施設運転管理年報)

 原子力安全基盤機構が取りまとめ、原子力規制委員会が公表している「原子力施設運転管理年報」をもとに2002~2012年の各原発からのトリチウム放出量の総量を求めた(表1)。加圧水型は沸騰水型より大量に放出するが、加圧水型の玄海原発は全国一トリチウムの放出量が多かった。

 ところで、このトリチウムは三重水素ともいわれる放射性の水素である。通常の水素は陽子と電子が各1個で構成されるが、重水素は陽子、電子、中性子がそれぞれ1個で構成され、またトリチウムは陽子、電子が各1個、中性子が2個で構成され、これは放射性水素となる。放射性ではあるが、その化学的性質は通常の水素と変わらないために、水(H2O)を構成する原子となったり、タンパク質や脂肪、DNAなどを構成する原子となったりする。

 このトリチウムは原子炉では、核分裂反応を調整する制御棒中のホウ素(10B,Boron)と中性子との反応、重水素が中性子を獲得する反応、燃料であるウランが3つに分裂する三体核分裂により生成するとされる(百島則幸:環境中のトリチウム.トリチウム研究会.2014)。しかし、制御棒はどちらのタイプの原子炉にも存在し、これだけでは加圧水型が沸騰水型よりトリチウム放出量が多いことを説明できない。「沸騰水型炉(BWR)に比べて加圧水型炉(PWR)からの放出が多いのは、1次冷却水中にケミカル・シム(注・化学的調整剤)として加えたB(注・ホウ素)のためであり、とくに旧式の炉ではステンレス被覆管を採用しているため,燃料中の核分裂生成のトリチウムが,1次冷却水中に移行する割合が多い結果と考えられる」(岩倉哲男.保健物理.1975)とされ、加圧水型原子炉の1次冷却水中に加えられたホウ素が原因と考えられる。そして、1次冷却水の容量調節の際に大量に放出されている。

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【トリチウムは原発から垂れ流されている】

 原子炉からは通常運転中でも様々なルートで放射性物質が放出される。気体廃棄物については「原子炉運転制御設備等において1次冷却材から分離された気体中に放射性物質が含まれ、ガス減衰タンク系排ガスとして放出される。〈中略〉ポンプ、弁の機器等から漏洩した冷却材中(漏水廃液:ドレン水)に含まれる放射性物質の一部が、建屋内雰囲気に移行し、換気系を通じて放出される」、液体廃棄物については「建屋の床にたまる床ドレン、機器配管の水抜きの際の機器ドレン、原子炉冷却材浄化用イオン交換樹脂の再生廃液、洗濯廃液等が挙げられ、これらには冷却材中に含まれる放射性物質が混入する可能性がある」(高度情報科学技術研究機構:原子力百科事典・ATOMICA「原子炉施設からの放射線(能)」)とされる。

 しかし、原発からの放射性廃棄物の濃度規制はあるが、総量規制はない。「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」に基づく「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」(通商産業省令)の第90条には、「四 〈前略〉(気体状の放射性廃棄物は)周辺監視区域の外の空気中の放射性物質の濃度が原子力規制委員会の定める濃度限度を超えないようにすること」、「七 〈前略〉(液体状の放射性廃棄物は)周辺監視区域の外側の境界における水中の放射性物質の濃度が原子力規制委員会の定める濃度限度を超えないようにすること」としかなく、排出総量は規制されていない。濃度限度は「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示(経済産業省告示、2001年、最終改正:2013年)」に示されている(表2)が、希釈さえすれば、どれだけでも排出してよいということになる(Bq=ベクレル)。

表2)トリチウムの濃度規制値 (経済産業省告示,2001年,最終改正:2013年)
周辺監視区域外の空気中の濃度限度 5×10-3(Bq/cm3 〔0.005(Bq/cm3)〕
周辺監視区域外の水中の濃度限度 6×101(Bq/cm3 〔60(Bq/cm3)〕

 総量に関して規制値はないが、1989年に原子力安全委員会は原発の安全審査の際の放出量の指標値を出している(「発電用軽水型原子炉施設の安全審査における一般公衆の線量評価について」)。これでは、トリチウム以外の核種の合計年間放出量は3.7×1010Bq/y(年間)、トリチウムは沸騰水型については3.7×1012Bq/y、加圧水型については7.4×1013Bq/yとなっている。しかし、これはあくまで規制値ではない。また、加圧水型と沸騰水型とでは20倍の開きがある。このことは、住民の安全に配慮した数値ではなく、原子炉の実態に合わせた数値であることを示している。

 また、高浜原発の沖合の海水のトリチウムを測定した研究では、沖合約4kmで6Bq/L、約8kmで3Bq/Lとなっている(藤波直人,他.保健物理,1997)。全国20か所の平均は0.71Bqであり(高島良正.RADIOISOTOPES,1991)、高浜原発沖合の3~6Bqはそれよりはるかに高い。

【トリチウムはベータ(β)線を出して、ヘリウムに変化する】

 トリチウムはβ線を出してヘリウムに変化するが、そのエネルギーはγ(ガンマ)線やX線と比較すると非常に小さい。しかし、有機物結合トリチウムとしてDNAに取り込まれたトリチウムからのβ線は近傍のDNAを損傷させる十分な力を持っている。

 また、DNA結合トリチウムはβ線を放出し、DNAを損傷させるだけではなく、β線を放出した後にヘリウムに変わるため、DNAの元の分子構造も破壊する。本来、水素原子があるべきところがヘリウム原子に置き変わってしまうために、DNAに異常をきたす。二重の形で生体に損傷を与えるわけであり、このためにがんを発症したり、遺伝的影響を起こしたりする危険性が生じる。

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【トリチウムは生物を汚染し、生物中で濃縮される。白血病を誘発する傾向もある】

 環境中に放出されたトリチウムは、河川や海洋の生物を汚染する。ハンガリー、Paks原発のドナウ川への温水排水口周辺の巻貝、ドブ貝、肉食・雑食魚類の調査(Janovics R, et al.J Environ Radioact.2014)、複数の原発の排水が流入する英国南部、セバ-ン川河口とブリストル海峡(湾)でのヒバマタ属海藻、ムール貝、カレイの調査(McCubbin D, et al. Mar Pollut Bull.2001)では水生生物からトリチウムが検出され、トリチウムの生物濃縮も確認されている。また、カナダでの大気中のトリチウム濃度の測定では、原発に近いところほどその濃度も高い(Fairlie I. Environ Health.2009)。トリチウムガスを12日間放出し、植物中の炭水化物などの有機物と結合した有機物結合型トリチウム(OBT)を測定した研究では、コマツナ葉、ラディッシュ根、トマト実のいずれも日数とともにトリチウム濃度が上昇し(天野光,新 麻里子.原子力学会誌.1997)、このことは大気中のトリチウムも植物に吸収され、生物濃縮される可能性があることを示している。

また、トリチウム水を投与された母マウスが授乳した仔マウスの体内のトリチウムは長期間、残留することも明らかにされている(斎藤眞弘.原子力学会誌.1997)。さらに、生物の体内のトリチウムはDNAにも取り込まれ、メダカの卵の場合はその消失速度は非常に遅い。“the loss of tritium from the DNA of the eggs was very slow.”「(DNAに取り込まれたトリチウムは徐々に減少するが、メダカの)卵のDNAからのトリチウムの消失速度は極めて緩慢である」(Ueno,AM. Radiation Research.1974)

 生物濃縮されたトリチウムは食物連鎖により、大型の動物に取り込まれる。ヒトは食物連鎖の頂点にあり、様々なルートで摂取するが、魚介類のトリチウム濃度が高いことを考えると海産物からの摂取量が多いと考えられる。

 次に、トリチウムは濃度依存的(濃度が高くなるにつれて)にユスリカの染色体異常を誘発すること(Blaylock, B.G.:Proc.Third Nat. Symp. Radioecol.1971)、また同じく濃度依存的に魚類のマコガレイ、メダカに細胞分裂後期の染色体の異常である「染色体橋」を誘起すること(Suyama,I.,et al. Proceedings of The International Symposium on Radiation Effects on Aquatic Organisms,1980)が明らかになっている。さらに、トリチウムはマウスの動物実験では白血病を誘発する傾向がある(Daher,et al. Carcinogenesis.1998)こと、トリチウムの単回投与より同量の分 割投与の方がより白血病を誘発する(Seyama, T, et al. J Radiat Res.1991)ことが明らかになっており、トリチウムと白血病の関連が示唆される。

図5)トリチウムはマウスの白血病を誘発する傾向がある
図5) トリチウムはマウスの白血病を誘発する傾向がある ↑クリックすると拡大します
出典:Daher A,et al.:Effect of pre-conceptional external or internal irradiation of N5 male mice and the risk of leukemia in their offspring. Carcinogenesis.1998.19:1553-8.(一部改変)

 また、トリチウム高放出原発と低放出原発の立地自治体住民の白血病による死亡率を、2群間の平均値の差を検定する「t検定」(2つの集団は数字上で異なる性質の集団であるといえるかどうかを統計学的に調べる方法)で比較するとp=0.018と統計学的有意差があった(通常、p<0.05、統計学的に偶然である確率は5%未満、つまり正しい確率が95%超の場合に統計学的有意差があるとする。pは“probability”、「確率」の略)。また、循環器系疾患による死亡率も p=0.002 と有意差があり、急性心筋梗塞による死亡率も統計学的に有意ではなかったが加圧水型の住民の方が高い傾向があった。

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【成人T細胞白血病(ATL)の影響を考慮しても玄海町の白血病は多い】

 高齢化の影響に関しては玄海町の高齢化率上昇の傾向自体は全国と変わらず、白血病死増加の要因とは考え難い。また、西日本がその原因ウイルス(HTLV-I)の高浸淫(感染)地域である成人T細胞白血病(ATL)の影響を、唐津・東松浦地区のHTLV-I抗体調査(諸藤美樹,他:感染症誌,1990)、HTLV-IキャリアのATL発症率の推定(田島和雄,伊藤新一郎:ウイルス,1992)、HTLVの夫婦間感染の調査(Roucoux, et al. J Infect Dis.2005)、白血病発症者の死亡率(白血病罹患数は国立がん研究センター「がん統計」、白血病死亡数は「人口動態統計」による)などにより推定した。結果は玄海町のATLによる死亡数は全体の1/4程度であり、大勢に影響はなかった。

【玄海町とその周辺の白血病の多発の要因は、玄海原発から放出されるトリチウム以外には考えられない】

 以上、検討したように玄海町における白血病死亡率の上昇は、高齢化やATL(成人T細胞白血病)の影響だけでは説明できない。玄海原発が全国一トリチウムの放出量が多いこと、トリチウムは原発周辺の海水、大気、水産物を汚染すること、動物実験ではトリチウムは白血病を誘発する傾向があること、同じ原発立地自治体でもトリチウム高放出と低放出原発立地自治体の住民の間には白血病死亡率に統計学的有意差があることなどから、玄海町における白血病死亡率の上昇は玄海原発から放出されるトリチウムの関与が強く示唆される。

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【六ヶ所村の核燃料再処理施設からはアクティブ試験段階で大量のトリチウムが放出されている】

 核関連施設が集積する青森県下北半島の六ヶ所村では、日本原燃㈱が1993年から2兆円余りの費用をかけて、使用済み核燃料の再処理工場の建設を進めている。そして、モーター、撹拌機、ポンプ等の作動・機能を確認する通水試験、再処理工程で使用する化学薬品を使用した計測設備の調整、廃棄物処理施設の機能の確認等の化学試験、天然または劣化ウランを用いた再処理工程の処理能力の確認および計測設備の調整等のウラン試験を経て、2006年より実際の使用済み核燃料を用いた運転による施設全体の性能の確認および調整を行うアクティブ試験が実施されている。

 「原子力施設運転管理年報」によると2003~2012年の六ヶ所再処理工場からの各年度のトリチウム放出量および総量は以下のとおりであった。

年度 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 総量
トリチウム放出量 気体 5.8 7.5 170 6000 9800 3700 340 240 440 160 20.8テラ・ベクレル
液体 0.0018 0.0009 0.0014 490 1300 360 4.1 1.4 0.9 1.1 2157.5テラ・ベクレル
気体の単位はメガ・ベクレル(100万ベクレル)、液体の単位はテラ・ベクレル(1兆ベクレル)

 アクティブ試験が開始された2006年から、放出量が激増している。

 次に、六ヶ所再処理工場からのトリチウム放出量を、原発しては全国一トリチウム放出量の多い佐賀県の玄海原発と比較した。

年度 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 総量
玄海原発 95 73 74 99 86 69 81 100 56 2 735.0
六ヶ所再処理工場 0.0076 0.008 0.171 496 1310 363.7 4.44 1.64 1.34 1.26 2178.4
単位はテラ・ベクレル(1兆ベクレル)

 六ヶ所再処理工場からの10年間の放出総量は、原発しては全国一トリチウム放出量の多い玄海原発のおよそ3倍であった。特に、2007年は1年で玄海原発の約18年分を放出していた。

 六ヶ所村では2006年のトリチウム大量放出後に白血病死亡数が増加する傾向がみられる。

トリチウム大量放出前後の六ヶ所村の白血病死亡数の比較
大量放出前 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年
0 0 0 1 0

大量放出後 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
1 1 1 1 0
データ出典:2003~2014年 青森県保健統計年報

 大量放出前後の2群間のt検定の結果は p=0.035 と統計学的には有意な差があったが、症例数が1例と4例と少数であり疫学的には有意な差ということは困難かもしれない。しかし、大量放出後に増加傾向にあることは否定できない。

【まとめ】

 以上みてきたように、原発、特に加圧水型原発および核燃料再処理施設からは大量のトリチウムが放出され、その結果、周辺住民に白血病が増加している。原発は国民の健康とは相容れないものである。


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京都市民放射能測定所 連絡先
 〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55-1 コーポ桃山105号室
  tel/Fax:075-622-9870  e-mail:shimin_sokutei@yahoo.co.jp