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 ◆ ――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判
  渡辺悦司

――原発再稼働の経済と政治――
経済産業省専門家会議「2030年度電源構成」の分析と批判

渡辺悦司
2015年7月27日

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第2章 電源構成案の基本的な内容と特徴

この章の目次

1.原発再稼働の規模と再生可能エネルギー抑制
2.日本経団連の2030年度電源構成案
3.電源構成案でCO2の26%削減目標の達成は可能か



 1.原発再稼働の規模と再生可能エネルギー抑制

 次に2030年度電源構成案の想定する発電量を、想定する発電出力(容量)に換算し、現存する発電所の合計出力と比較してみよう。

 その前に、数字に不慣れな読者のために、発電出力(瞬間的な容量あるいは能力)と発電電力量(積算した発電量)の計算について簡単に説明しておこう。

 (1)年間の発電電力量=発電所の出力(kW)×24時間×365日(キロワットアワー[kWh])
  1. 標準的な原子力発電所の発電出力(1基あたり)は約100万キロワット(これは瞬間的な出力のことである)。
  2. つまり標準的な原発を1年間運転すると、年間の発電量は、
      100万kW×24時間×365日=100万キロワット(kW)×8760時間=87億6000万キロワットアワー(kWh)
 (2)火力発電所の出力
  1. 最大規模の火力発電機の出力は1機あたりほぼ100万キロワット。
  2. 標準的な火力発電機の出力は1機あたりほぼ50万キロワット。
  3. 小規模な火力発電所の出力は1機あたりほぼ10万キロワット。
 (3)水力発電所の総出力
  1. 黒部第四発電所の総出力は33万5000キロワット。
  2. 奥只見発電所の総出力は56万キロワット(一般水力で日本最大)。
  3. 一般に中小水力発電所の出力は1万~3万キロワット。
  4. 小水力発電所の出力は1000キロワット以下。
 (4)風力・太陽光発電所の出力
  1. 郡山布引高原風力発電所の最大総出力は6万6000キロワット(現在日本最大)。
  2. 現在の最大級の風力タービン1機の最大出力はおよそ8000キロワット。
  3. 大分ソーラーパワーの最大総出力は8万2000キロワット(現在日本最大)。
  4. 世界最大級の風力発電所の最大出力は132万キロワット(カリフォルニア州、文献25
  5. 世界最大級の太陽光発電所の最大出力は58万キロワット(カリフォルニア州、文献26
  6. ただし日本の条件では、風力・太陽光の設備利用率は政府想定で風力20%、太陽光14%とされる(実際にはもっと高いとも言われている)。
  7. 世界最大級の自然エネルギー発電所付属の蓄電池システムの最大出力は15万キロワット(小規模火力発電所の出力に等しい、後述)。
 これらを知っておくと、電力の問題を考えていく上で便利であろう。注目される点は、水力発電、風力・太陽光発電の発電能力が、原発や火力発電に比較して決して小さくないという点である。
 これらを踏まえて、政府案の想定出力を見てみよう。

表5 「2030年電源構成案」の発電出力への換算――発電設備は過剰状態
2030年度想定 2014年度推計
電源種類 発電量(億KW時) 電源構成比率 想定出力(万KW) 現存出力(万KW)
石油火力 315 3% 360 5343
石炭火力 2810 26% 3208 5226
LNG火力 2845 27% 3248 6859
火力計 5970 56% 6816 19300
原子力
  稼働率70%
  稼働率60%
2317~2168 22~20% 2645~2475 4248(除廃炉分)
3778~3536
4408~4125
再生エネルギー 2366~2515 22~24% 2701~2871 13529(含認定分)
  太陽光
  利用率14%
749 7.0% 855 7722(含認定分)
6107
  風力
  利用率20%
182 1.7% 207 417
1035
  地熱 102~113 1.0~1.1% 116~129 52
  水力 939~981 8.8~9.2% 1072~1120 4959(小水力998)
  バイオマス 394~490 3.7~4.6% 450~559 379
合計 10650 100% 12158 37077
注記:左2列が政府の電源構成案の数字、右2列がわれわれの計算あるいは引用した数字である。
出典:2030年度の発電量とその比率は、総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会 発電コストワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)2015年4月」(66ページ)による。想定出力はその数字により筆者が計算。再生可能エネルギーの各現行出力は、同書にある「認定量」をそのまま引用した。
石油火力、石炭火力、LNG(都市ガスを含む)火力の現行出力はWikipediaの「日本の火力発電所一覧」より筆者が計算。複数の燃料を使用する発電所は、最初にあがっている燃料に分類している。
原子力発電所の現行出力はWikipedia「日本の原子力発電所」による。事故を起こした福島第1原発、廃炉の決まっている原発各号機は除外されている。
火力現行出力計および水力発電の現行出力は資源エネルギー庁「発電所認可出力表」「自家用発電所認可出力表」によって筆者計算。

 原発がすべて停止して「発電設備能力が不足している」という印象を持っている読者が多いと思われるが、表を見ると、そのようなイメージは、どんな手段を使っても原発を再稼働したがっている電力会社や経産省が意図的に流してきた虚偽の情報であることがよく分かる。現在すでに発電設備は絶対量では過剰状態にある。(石油火力などは老朽化が進んでいることは確かだが、それを除いてもこの過剰は確認できる。ただし設備老朽化の問題はここでは置いておこう)。

 以下各項目に付いてみてみよう。まず原発と火力との関係について考察し、次に再生可能エネルギーについて考えていこう。

 (1)原発については、2030年時点で政府の想定水準22%を確保するには、稼働率を70%とすれば、ほぼすべての原発を稼働し続けなければならないことが分かる。しかし、既存の原発のうち半数程度は、2030年までに、使用年限の40年を越えてしまう。これに関連して、電源構成案には次のグラフが記載されている。

引用10:政府の原発再稼働規模計画を表すグラフ
政府の原発再稼働規模計画を表すグラフ
 (画像をクリックすると拡大します)
経済産業省「長期エネルギー需給見通し 骨子(案)関連資料」

 上記の図からは、①既存の原発43基をすべて運転、②その際の40年運転年限を60年に延長、③新増設中の3基の工事を促進し早期に稼働、という政府の意図が読み取れる。このように、計画している内容を直接に明記するのではなく、間接的に示唆することによって、すなわち2030年度の電源構成比率を実現するための必要条件という形で政府の実際の意図と計画を表示するというやり方が、今回の電源構成案の特徴の一つである。この点に注意すべきである。

 (2)火力発電については、電源構成比率を56%とする計画であるが、震災前10年の63%と比較して大きく削減されたとは言えず、またバイオマスとして再生エネルギーとして計上されている火力部分(3.7~4.6%)を加えると60~61%の比率となり、ほとんど変化がない。化石燃料による火力発電に依存する構造は今後15年間変えないという計画である。

 (3)次に再生可能エネルギーについて見てみよう。
象徴的なのは太陽光発電能力である。太陽光発電の現存設備は、認定されている計画分を含むと、すでに2030年度想定を大きく越えて過剰に存在し、経産省の想定を「実現する」ためには、太陽光発電設備は、現在の計画分を含めておよそ20%の「削減」を強行し、さらに今後15年間新規計画を一切認めないことになる。
 水力についても事情は同じである。小規模水力についても、ほとんど新規投資を行わない想定であると言える。
 風力については発電量を2.5倍に増強することになっている。これは、日本における風力発電製造主要メーカーが三菱重工、日本製鋼所、日立製作所であり、この3社は主要な原発機器製造企業でもあり、原発推進策を補強するものとして、風力発電での国際競争において大きく後退して行っている日本メーカーを側面から援助しようとする政府の意図が感じられる。ただ世界的に見れば規模があまりにも小さい。
 電源構成案による再生可能エネルギーによる現在の発電容量は以下の通りである。

引用11:電源構成案における再生可能エネルギー
電源構成案における再生可能エネルギー
 (画像をクリックすると拡大します)
出典:経済産業省 総合資源エネルギー調査会 長期エネルギー需給見通し小委員会 発電コストワーキンググループ「長期エネルギー需給見通し小委員会に対する 発電コスト等の検証に関する報告(案)」2015年4月
・太陽光発電については、経産省案は2030年で発電量が749億kWhに達するとの想定だが、これはすでに現在の段階(認定段階の設備も含む)で超過達成されている(846+86=932億kWh)ことが分かる。経産省の想定を「実現する」ためには、太陽光発電設備は、2030年度までに、現在の水準よりも20%の削減を強行しなければならないことになる。


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 2.日本経団連の2030年度電源構成案

 今回の経産省の電源構成案は、財界の現指導層の強い影響下に策定されたことがうかがわれる。したがって、われわれも電源構成案の内容を具体的に検討する前に、財界指導層の考える長期エネルギー政策の基本路線をざっと見てみる必要がある。

 坂根氏の出身母体である日本経済団体連合会(以下経団連と略記)は、政府の電源構成案が公表される直前の今年(2015年)4月6日、「新たなエネルギーミックスの策定に向けて」という文書を発表し、経団連としての2030年電源構成プランを示している。同文書は、その分析の要旨を次のようにまとめている。下線部に注目いただきたい。

引用12:経団連の2030年電源構成計画案
 「モデル分析結果のポイントは次のとおりである。
①2030年時点でも、化石燃料は一次エネルギー供給において引き続き重要な役割を果たしている。
②再生可能エネルギーに関しては、比率が5%ポイント増加すれば、6,000億円~1兆1,000億円コストが増加する。とくに、現状みられるように導入が太陽光に偏った場合には、価格競争力の高い順に再生可能エネルギーが導入される場合と比べ、3,000億円~5,000億円コストが増加する。
③ゼロエミッション電源(再生可能エネルギー+原子力)比率が5%ポイント増加すれば、エネルギー起源CO2は2~3%ポイント減少する。
④全般的な傾向として、「原子力比率が高いほど+再エネ比率が低いほど」経済に好影響を与える(悪影響を与えない)という分析結果が観察される。
⑤再生可能エネルギーのうち価格競争力の高いものから順に導入されれば、15%以下の場合には経済に与える悪影響は極めて小さい。
以上を踏まえれば、S+3E(安全性、エネルギー安定供給、経済性、環境適合性)の観点から、2030年における電源構成は、再生可能エネルギー15%程度、原子力25%超、火力60%程度とすることが妥当である。」
出典:日本経済団体連合会「新たなエネルギーミックスの策定に向けて」2015年4月6日(下線部はわれわれによる)

 財界中枢の考えるエネルギー政策の基本線は、①原発の大規模な再稼働、②再生可能エネルギーの抑制(概ね現状程度)、③火力発電のとくに石炭火力を主力としての推進であり、政府の電源構成案に先立って提言していた。政府案はこの路線を基本的に引き継ぎ、再生エネルギー部分を若干増やして格好を付けた程度である。

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 3.電源構成案でCO2の26%削減目標の達成は可能か

 経産省案は、EUだけでなく中国・アメリカがCO2削減目標を提示する(米:2030年までに対2005年比42%削減)という国際的な状況を踏まえて、日本経団連案に原発を3%(自家発電分を除くと1%)および火力を6%それぞれ削り、再生可能エネルギー比率に7%上乗せをして辻褄を合わせた(CO2排出が2030年度までに対2013年度比26%減)。EUやアメリカが再生可能エネルギーを主要な基礎として排出量を削減しようと計画しているのに対して、日本が主に原発の再稼働によって削減使用としているという点で根本的な違いがある。
 多くの国の場合、国際的な基準年は2005年になっているが、政府案では2013年度を基準にし、短期間に26%という大きな削減率を達成するかに印象づけようとしている。たしかに原発が稼働していた2009年度にはCO2排出量は2005年度から11%低下した。だが、同じく原発が稼働していた2007年には2013年とほぼ同じ水準の排出量であった。つまり2008~2009年の低下は景気後退による部分が大きいのである。原発稼働が福島事故前の水準に戻ったとしても、それだけではCO2排出量は約1割減少するとは限らない。
 経団連の試算(上記③「再生可能エネルギー+原子力の比率が5%ポイント増加すれば、エネルギー起源CO2は2~3%ポイント減少する」)によって計算してみよう。仮に2013年度を基準にしても、再生エネルギーと原発の合計の比率は12%から2030年度の44%に32%増えるが、それでもエネルギー由来のCO2は12.8~19.2%ポイントしか削減されず、政府目標の26%には及ばない。もし震災前10年間をとれば38%から2030年度の44%に、わずか6%ポイント上昇するだけであり、経団連の試算に基づけば、エネルギー由来のCO2排出量は、わずか2.4~3.6%ポイントが削減されるだけである。

図1
日本の二酸化炭素排出量の推移
 (画像をクリックすると拡大します)
日本地球温暖化防止活動推進センターの資料による

 大規模な原発再稼働によって26%の削減目標が実現できるはずだというのは、安易な口約束と言われても仕方がない。経団連の推計によって計算しても、「欧米に遜色ない温室効果ガス削減目標を掲げ世界をリードすることに資する長期エネルギー需給見通しを示すことを目指す」(経済産業省「長期エネルギー需給見通し 骨子(案)」)という言葉は、まったくの虚言としか響かない。

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